(この女性が銀嶺堂のオーナー? もしかして芳名帳を見たのかな。)
不思議に思いながらも頭をさげる。
「はい。初めまして、結城莉央と申します」
「あっ! やっぱりそうだ!」
水森に頭を下げる莉央を見て、河合は腑に落ちたと言わんばかりに、ぽんと手のひらを拳で叩いた。
「あなた、設楽先生のモデルさんだ!」
「はい?」
(先生はモデルを使って画は描かないはずだけど。いや、それ以前に私のことどうして知ってるの?)
ポカンとする莉央に、河合はさらに迫る。
「いやぁ、お目にかかれて光栄だよ。あなたも本当は描く人だと噂に聞いていたけど、どんな画を描くのかなぁ。あ、俺の名刺渡してもいい? 一度ゆっくり話してみたいなぁ」
ニコニコと笑う河合は本当に毒もなく、むしろ社会性溢れる男のように思えたが、莉央には彼と話をする気もない。