頭を下げてその場から離れようとすると、
「あ、ごめんなさい。ちょっと待って。やっぱり俺、あなたのこと知ってる」
と、押しとどめられてしまった。

 悪気はなさそうなのだが、いかんせん押しが強すぎる。莉央は戸惑いを覚えなかまら後ずさる。


「ですから私は、」
「結城莉央さんですね」


 騒ぎを目にしたのか、ほっそりとした黒のパンツスーツの女性が、莉央と河合の間に割って入った。


「初めまして。銀嶺堂を任されております、水森(みずもり)と申します」


 身長は平均値の莉央より少し高いくらいだろうか。髪をベリーショートにした、三十代半ばくらいのシャープな雰囲気の美人である。