芳名帳に名前と住所を書き、中を見て回る。

 銀嶺堂は五階建てで、一階と二階がギャラリーになっているようだ。
 広々とした空間に品良く陶器が展示され、かなりの人で賑わっていた。


 莉央も薄桃色の、手のひらより小さな筒のようなものを眺めていると、
「それはね、煙草入れなんですけど、吸わない人には香炉として使えばいいって勧めてるんですよ。俺の一番のお気に入り」
いきなり声をかけられ、振り返れば高嶺とそう変わらないくらいの男が立っていた。


「これはあなたの作品なんですか?」
「そうですよ。ここにはたまたま入ってくれたのかな。河合透(かわいとおる)といいます」


 河合と名乗った陶芸家は、長身の、無精髭にくせっ毛の、なかなか愛嬌のある男だった。
 着慣れた感じのジャケットとセーターにデニム姿で、両手をポケットに突っ込んでいる。