「ん、今日はここまでか……無理はしない。それに昨日よりは進歩したな……同意の上でキスしたし」


 高嶺はクスリと笑って、それ以上莉央に尋ねることはなかった。


「シャワー浴びてくる」


 風呂上がりにシャワーを浴びる意味がわからないが、高嶺は肩をすくめ、莉央の頭をポンポンと叩くと、バスルームへと行ってしまった。


 キスをしておいて、それ以上何も言われなかったことにホッとした。

 同意の上で。確かにそうである。
 けれど今高嶺に何を考えているのか問われたら、口をつぐむしかない。

 けれどどうしてこの男なんだろう……。
 自分の人生を狂わせた元凶に、どうして惹かれてしまうんだろう。

 莉央は震えながら、膝を引き寄せてうつむく。


 このキスで、高嶺に惹かれてしまうことを受け入れるには、この十年はあまりにも重すぎた。

 高嶺もそれがわかっているのだろう。
 決して今すぐ莉央から答えを引き出そうとしない態度に、莉央はまた彼の本気を感じて、苦しくなった。