「なんだよ」
「まさか奥方様に十年経って離婚届突きつけられるなんて思ってなかったよね。不謹慎だけど俺はちょっとワクワクしてるよ」
「他人事だと思って……」


 副社長は繊細で美しい顔をしているが、中身は意外にタフなのだ。


「ふふっ。他人事じゃないよ。そうだろ?」


 二人で作った会社である。一連托生であることは事実だ。
 とにかくこんなことでケチをつけられるわけにはいかない。

 天宮を見送ったあと、高嶺はソファに倒れるように横たわった。


 十年以上前のことである。
 当時大学院で研究をしていた高嶺は、サラリーマンだった親友の天宮を誘ってマンションの一室で事業を始めた。

 インターネット広告事業は、面白いほど儲かった。そして一年経った頃、高嶺はさらなる高みを目指して、一か八かの賭けに出た。

 それが今のタカミネコミュニケーションズの土台になっている。