(私なんて、何もできない……卑屈でやなヤツなのに……。)
 
 高嶺に抱きしめられると、自分を意識する。今何を考えているか、感じているのか、曖昧な輪郭がはっきりしてくる気がする。


(誰も心に入ってこないでと思うのに、この人はどうやっても無視できない……。)


 そして同時に嫌いと言われても折れない高嶺に、ある意味尊敬すら覚えてしまう。

(私ならきっと、一人を選ぶ。傷つくのは怖いから、一人でいたほうがマシだと思うのに……。って、なに高嶺に感心してるの、違うでしょ!)


「離してくださいっ!」


 必死で高嶺の上半身を両手でおしかえすと、高嶺は素直に体を起こした。そしてにっこりと微笑む。


「おはよう、莉央」