「はい?」
「昨日は、動揺のあまり、お前が欲しいというのを、忘れていた……」


 こつんと額が触れ合う。前髪がサラサラと落ちてくる。

 青墨色の瞳は今日も変わらずきれいで、こんなことをしている場合ではないというのに見惚れてしまう。


「すまん」
「や、別に、その、待ってないですけど……!」


 別にささやかれたいわけでもないのに、いざ距離が縮まると緊張して体が固まる。


「唇にキスしてもいいか」
「いっ、いいわけないでしょ!?」
「じゃあ頬は? 頰ならいいだろ。おでことか……」


 高嶺の長い指が莉央の頰にかかる髪を払う。

 いいわけないのに、最初に唇と言われてからの頰やらおでこと言われると、大したことがないように感じさせられて恐ろしい。