「ちゃんと、な……」


 親友の言葉に、いくぶんか冷静さを取り戻したらしい高嶺は、ハアッと大きくため息をつき、ローテーブルを挟んで天宮の前に座る。


「マサ。まず、奥方様のことを考えてみよう。問題はなぜ今離婚と言い出したのか、だよ。なんにしろその理由を確かめるのが先決じゃないかな。ちなみに今日は男と一緒だったと言っていたけれど……。そいつ、恋人ぽかった?」
「一緒にいた男か……」


 天宮に言われて莉央と一緒に来た男のことを思い出す。
 年の頃は二十代後半。学生のような雰囲気の線の細い男だった。


「いや、間男って感じじゃなかったな」


 結城莉央。
 所詮名ばかりの妻だが、さすが結城家の一人娘だ。華があったことは否定しない。
 あの男が結城家ゆかりの者ならば、自分に向けられる敵意が間男のそれとは違っていたのも当然だろう。