もちろん設楽のことは心から尊敬している。
好きか嫌いかと問われれば好きである。
けれどそれは人として見ているのであって、男として意識したことなど一度もなかった。
芸術家らしく、どこか浮世離れした雰囲気を持つ設楽は、誰が見ても魅力的に違いないのだが、自分が当事者になると考えると怖気付いていまう。
十年前、望まぬ結婚をした莉央の人生に、恋愛は自分には関係のないものとしか思えなかった。
(怖い……。)
ソファにもたれるようにして座り、目を伏せる。
(恋なんて必要ない……。誰の個人的感情にも振り回されたくない。誰かに苦しめられるくらいならずっと一人がいい……。)
「誰も私の心に入ってこないで……」
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