そして彼は、なにより圧倒的な権力と行動力を持つ帝王なのだ。
 ある程度のことはナンバーツーである天宮がコントロール出来ても、高嶺が何かを決断したとき、天宮にそれを止めることはできない。

 だから十年前、名門結城家の娘と契約だけの結婚をすると高嶺が決めた時も、天宮は止められなかった。

 だからこそ今の成功があるのだが、仕事で成功することと、奥方様の決心を変えられることはまったく別のベクトルだろう。


「離婚届を突きつけられた男のくせに、まったく気にしていないのすごいね」
「ああ、その問題があったか」


 高嶺は言われて思い出したようで、拳を口に当てて思案顔になる。


「考えを変えてもらう」
「ええー……その自信どこから来るのかな……」


 人生に一度くらいは、思い通りにならないことがあると思い知らされた方がいい。

 六月の株主総会を終えたら、この十年に敬意を表して莉央に慰謝料を払い、綺麗に別れればいいと思っていた天宮は、波乱の幕開けを感じていた。