「貴女の結婚を聞いて、ただの友人として、おばあさまにお願いして会わせてもらったのです。もちろんおばあさまは少し気まずそうでしたが、私は貴女の力になりたかった。最初は純粋にそう思ったはずなのに、気がつけば……」


 設楽は苦しげに莉央を抱きしめる腕に力を込める。


「貴女はそんな私の気も知らないで『先生、先生』と慕ってくれて……。莉央、京都を離れたのは貴女を想い続けるのが苦しかったからです。私を純粋に尊敬してくれる貴女を裏切りたくなかったから、私は逃げたのです……!」


 背中に回る設楽の腕は強く、耳元で響く告白は真に迫っていた。

 女である自分よりも優雅でしとやかな彼の、どこにこんな力があるのだろう。
 普段物静かなだけに、その思いが痛いほど伝わってきて、莉央は何もできなかった。
 

「莉央」


 抱きしめていた腕を緩め、今度は、たぐいまれない美を生み出すその指先で、彼はまるでガラス細工にでも触れるかのように、莉央を顔を両手で包み込む。


「ニューヨークじゃなくてもいい。パリでもロンドンでもいい……。どこでもあなたの好きなところに連れて行ってあげる。だから莉央……離婚が成立したら私と一緒に日本を離れましょう」



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