「先生、外国に住むんですか……」
「少なくとも煩わしさは半減しそうでしょう?」
「それはそうですけど……」


(先生が外国に……。考えただけで寂しくてたまらないけど、先生のためには確かにその方がいいのかもしれない。ああ、そうか。先生があれこれと私のことを考えてくれるのは、このためなのね。ご自分が日本を離れる前にと、気遣ってくださってるんだ……。)


 納得した莉央は、きちんと座椅子の上で座りなし、自分をまっすぐに見つめる設楽の視線を受け止める。


「突然のことで寂しいですけど、先生が落ち着いてご自分の画に向き合えるのなら……あと、私のこともいろいろお気遣いいただいて」
「莉央」
「はい?」


 少し前のめりで名前をよばれ、莉央は言葉を止める。
 設楽は、莉央の隣へ向かい合うようにきちんと正座した。


「私と一緒にニューヨークに行きませんか」
「……え? 一緒にって、お仕事のお手伝いですか?」