チョコレートが滑らかに溶けきったところで、手鍋の湯をシンクに捨てて、代わりに水道水で満たす。

冷凍庫を開けて、ありったけの氷を入れる。


氷水の中に、チョコレートの入ったボウルをうずめる。

ゴムベラでかきまぜると、みるみるうちにチョコレートが硬くなる。


固まりきる前にボウルを氷水から外し、粘土のようなチョコレートを手で丸める。

平皿に敷いたココアの粉の上で転がし、冷蔵庫にしまう。


あとは、冷えて固まるのを待つだけ。


リビングに戻り、冷たい床に座る。

背筋にぞくりと寒気が走った。


窓ガラスにうつる自分の姿をぼんやりと見つめながら、ただ、ただ、ひたすら待つ。


来るか来ないかも分からない彼を、待つ。



彼と出会ってから、どれくらい彼を待っただろう。

彼を待った時間をぜんぶ合わせたら、何時間だろう。

何十時間――何百時間?



いつだったか、十年来の友人が、『人生を無駄にしてる』と言った。


『馬鹿ね……あんな男を待って。あんな男に尽くして。あなたは若さを、人生を、無駄にしてる』


そうよね、と私は答えた。

そう答えるべきだと思ったからそう答えただけで、少しもそう思ってはいなかった。


『早く別れなさいよ。それに、あっちの奥さんが可哀想よ、知らないところで旦那に浮気されてるなんて。人を傷つける恋愛なんて、絶対に自分も幸せになれないんだから』


友人の忠告に、そのとき私は、神妙な顔で頷いてみせた。

でも、心の中では苦笑していた。