彼がここにやって来たら、手作りのチョコレート・トリュフを渡す。


毒薬入りのチョコレート。



彼は、来ないかもしれない。

今日はバレンタインデー。

向こうの女と過ごす可能性も高い。



彼は、食べないかもしれない。

甘いものは好きではないし、女の手作りの菓子を喜ぶような男でもない。

迷惑そうに顔をしかめて、「いらない」と冷たく答える可能性も高い。



それでも、もしも、

彼が今日、ここに来たら。


そして、私の作ったチョコレートを食べたら。



―――彼は死ぬ。


私の手で、彼が死ぬ。



唇を歪ませる笑いをこらえるのは難しかった。



どろどろに溶けたチョコレートの海に、バニラエッセンスを3滴。


それから、毒薬を、3滴。


それでは足りないかもしれないと思い直して、何度も何度も瓶を振り、空っぽになるまで続けた。


毒薬の瓶を置くと、笑えるくらいに軽い音がした。


致死量を調べておくべきだった、と少し思ったけれど、まあいい。


売人が『ほんの数滴で簡単に死ぬよ』と言っていたから、充分だろう。