*
タ
ユ
タ
ウ
*
部屋の中にいるというのに、自分の吐き出した息が白くて、そういえば暖房をつけていないことに気がついた。
ゆっくりと顔をあげて、時計を見る。
帰宅してから、たぶん二時間以上。
照明さえつけていない部屋は薄暗く、座り込んだフローリングの床は金属のように冷たい。
カーテンの隙間から射し込む街灯の明かりに照らされて、私の吐息は白く凍った。
一人の部屋にいると、いつもは耳にも入らない微かな音が、こんなにも大きく聞こえてしまうのは、どうしてなんだろう。
彼の好きなワインが入った冷蔵庫のうなる音。
彼の帰宅の遅れを知らしめるように時計の針が時を刻む音。
―――聞きたくない音ばかりが聞こえる。
彼が廊下を歩いて部屋に向かってくる足音。
彼が玄関の鍵を開ける音。
―――聞きたい音は、いつまで経っても聞こえてこない。
私はまたひとつ、深く息をついた。
頬のあたりで凍る吐息。
この部屋には、私のため息が充満している。
タ
ユ
タ
ウ
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部屋の中にいるというのに、自分の吐き出した息が白くて、そういえば暖房をつけていないことに気がついた。
ゆっくりと顔をあげて、時計を見る。
帰宅してから、たぶん二時間以上。
照明さえつけていない部屋は薄暗く、座り込んだフローリングの床は金属のように冷たい。
カーテンの隙間から射し込む街灯の明かりに照らされて、私の吐息は白く凍った。
一人の部屋にいると、いつもは耳にも入らない微かな音が、こんなにも大きく聞こえてしまうのは、どうしてなんだろう。
彼の好きなワインが入った冷蔵庫のうなる音。
彼の帰宅の遅れを知らしめるように時計の針が時を刻む音。
―――聞きたくない音ばかりが聞こえる。
彼が廊下を歩いて部屋に向かってくる足音。
彼が玄関の鍵を開ける音。
―――聞きたい音は、いつまで経っても聞こえてこない。
私はまたひとつ、深く息をついた。
頬のあたりで凍る吐息。
この部屋には、私のため息が充満している。