取り残された『私』は、ゆっくりと自分の頬に触れた。
ぺたぺたと撫でてみる。


「う、そ……。あたし、ヒィに、なってる……」


震えながら呟いた『私』は。

『福原陽鶴』ではない。


「あたし、ヒィの中にいる。なん、で……?」


今、『私』を支配してるのは『樋村美月』。
美月ちゃんだった。
そして。


「ヒィ。ヒィはどこ……?」


きょろきょろと辺りを見渡す『私』に、私が答える。


『私の中。私、どうやら美月ちゃん、私の体を乗っ取ってるみたいだよ……』

「え……⁉」

『私、自分の体なのに、全然動かせない。自分の体の奥で、見てるだけの状態、なんですけど……』

「ええ⁉ あ、あたし、ヒィを乗っ取ってるの⁉」


嘘! と叫ぶ声は自分の声で、しかし遠くに聞こえる。
さっきまで鮮明に聴こえていた『プロヴァンスの風』すらも、微かなメロディになってしまっていた……。