「ごめんね、勝手に部屋の中に入って。
あのね、その、あたし、どうも陽鶴ちゃんから離れられなくなっちゃったみたいなの」

「は?」


目の前の美月ちゃんは、私の知っているいつも通りの、普段通りの姿だ。

我が校の、ちっとも可愛くない夏の制服。
袖が少し膨らんだ白いブラウスに、襟元にきゅっと結ぶ赤いリボン。
ヒダが太めの、膝丈の紺のプリーツスカート。
田舎の子供合唱団みたいな、クソダサい制服。

しかし彼女はいつでもそれを可憐に着こなしていた。
私の憧れの長くて艶やかな髪も、そのまま背中に流しているのも、普段と同じ。


でも、美月ちゃんは確かに亡くなっていて……。

あれ?
私がお葬式で見たのは、やっぱり夢や幻じゃない?

てことは、この美月ちゃんは、幽霊?
幽霊ってやつ?

にしては、彼女の体は全然透けていなくて生身って感じだし、足だって……。


「浮いてる」


ハイソックスに革のローファーを履いた彼女の足は、フローリングより僅かに浮いていた。
そして。


「影が、ない」


さんさんとした夏の日差しを背に受けているというのに、彼女の足元には影と呼べるものは一切なかった。
美月ちゃんが困ったように眉尻を下げて笑う。


「あ、うん。あの、あたし、幽霊ってやつみたいなの」


え。
それって、まじですか。

次の瞬間、私は一欠けらの迷いもなく、容赦なく自分の頬を殴った。
スパコーン! と激しい音と共に、頬に間違いのない痛みが走る。


「うお……いった……ぁ」


痛みが走るっていうか、痛い。
とにかく痛い。
この痛み、現実だ。