私はまた、夢をみているらしい。
誰もいない廊下に、私はまた立ち尽くしていた。

前と同じように、周囲には人の声がする。
みんな楽しそうに笑っている。

だけど、私には彼らの姿が見えない。
彼らもまた、私の事が見えないのだろう。


『誰か!』


きっと誰も私が見えない。声も届かない。
そう分かっているけれど、私は声を張り上げる。


『誰か!』


ああ、なんて嫌な夢なんだろう。
こんな嫌な気分になる夢、しばらく見ていなかったのに。


『誰か!』

『うわ。うっぜぇ、このオンナ』


私の背後から前方へ通り過ぎて行った、吐き捨てるような声が胸を貫く。
次いで、バカにするような嫌な忍び笑いがした。

びくりとした私は、出そうとした声を反射的に飲み込んだ。
背中がじっとりと汗ばむ。

大丈夫。
だって私は見えていない。
私に言ったんじゃ、ない。

ぐっと唇を噛んで、俯いた。
その時。
柔らかな声が降ってきた。



『……大丈夫だよ、陽鶴ちゃん』



「……っ!」


目覚めた時に見たものは、薄暗い、自室の天井だった。
どうやら私は、自分のベッドに横たわっているようだ。


「あ……?」


何度も瞬きをして、それから目を擦る。
やはり、何の変哲もない自分の部屋だった。


「起きた? ヒィちゃん」


私の顔を覗き込んだのは母だった。