あなたのお悩み解決します~お助け倶楽部の事件簿~

「じゃ、じゃあ“未来”!」

今度は違う絵が出て一安心。

通称『夜明け』カード。

暗い水平線に、うっすらと太陽の明かりが見える。


つまり、【悩みが解決する】っていう意味……だよね?


“現状を変えるヒント”は?

あせってカードをめくった私は、

「ひゃあ」

悲鳴をあげた。

またしても出たのは『勇気』のカード。


このふたり……なんだか似ているのかも。


3枚のうち2枚が同じカードなんて、偶然?

念のためふたりの先生もやってみる。

担任の板垣先生のカードは、

「ええええ」

通称『赤ちゃん』カード。


つまり、【赤ちゃんが生まれる】……?


なにそれ。

「今日は当たらないのかな」


続いて“未来”のカードを見ると、そこに描かれているのはなにかが『爆発した』ような絵。

「『爆弾』カード……」

【感情の爆発】?


物理的だったら怖いって。
“解決するためのヒント”にいたっては、『ケーキ』の絵……。

「もう、なんなのよ」

イライラしてくる。

こんなにでたらめっぽいカードが出るなんて!

カードをしまおうとした手を、ふと止める。

「一応……長谷川先生のもやっておくか」

調子が悪いけど、念のためやらないと後で涼にイヤミを言われそうだし。


「長谷川先生の“現状”を教えてください」

そう言うと、やはりカードは光って見える。

ためらいつつもカードをめくった私の時間が止まった。

「これは……」

カードに描かれている絵は、通称『日没』。
さっきの『夜明け』の真逆で、【なにかが終わる】ことを意味している。

“未来”の予想図をはやる心でめくると……。

「ああ……」


そこには、なにも描かれていなかった。


通称『空虚』と呼ばれるカードで、【心の喪失】を意味している。

思わずツバを飲み込んだ私が、最後に引くのは“解決するためのヒント”。

「……」

じっと無造作に置かれたカードを見つめるが、どのカードも光らない。

目を閉じて息を整える。

「“解決するためのヒント”を教えてください」


ゆっくり目を開くが、どのカードもさっきと同じように並んでいる。

……ヒントがない?

はじめての出来事になんだか息があがってきている。

これから起こりうることに対して、なんにも対処できないってこと……?


どうしよう……。


こんなことはじめて。

なんでもいいからめくろうと、手を伸ばした時、

バンッ

入り口のドアが勢いよく開いた。

「ひゃっ」

「未希」

立っていたのは涼だった。

「なぁんだ、もう驚かせないで……」

言いかけた言葉が止まる。
それは涼の表情だった。

まっすぐに私を見ているその顔に、不安と緊張が浮かんでいた。

「いないんだ」

「え?」

「ヒカリがいない」

まばたきもせずに言う涼の顔が、ことの重大さを物語っている。

「もう帰ったってこと?」

「いや。まだ下駄箱には外靴があった。校内にいるはずなんだ。だけど、どこにもいない」

「そんな……」

おそるおそる立ちあがると、涼は、

「今、亜実にも探してもらってる。手伝ってくれ」

と、くやしそうに顔をしかめた。

「わかった」

すぐに駆け寄り、ふたりで廊下に出る。

「とりあえずこっち」

そう言って歩き出す涼の後を追いながら、

「どうする? 別々に探す?」

そう聞くと、涼は前を向いて歩きながら「いや」と言った。

「危険かもしれねぇし、一緒にいよう」

「……わかった」


少しだけ胸がキュンと鼓動を強めたけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。


急ぎ足で廊下を歩く。

「『料理部』は終わってたの?」

「もう長谷川しかいなかった。『とっくに帰った』なんて言いやがって」

クソッと言う涼をなぐさめてあげたい。

だって、長谷川先生はなにも知らないんだし……。


なにも?


さっきの占いがよみがえる。

言おうか迷っていると、突然涼が足を止めた。


ムギュ


背中に鼻を思いっきりぶつけた私は、ヘンな声を出した。

「いったいなぁ、もう……」

文句を言おうとした私の視界に、なにか見えた。


涼の背中越し、向こうから歩いて来るのは……。

「板垣先生!」

「いや、暑いねぇ」

あいかわらず汗を拭きながら、板垣はのんびりした口調で言った。

「ヒカリ見なかったです?」

その涼の口調はあまりに厳しく、真剣で怖かった。

「え? 相馬さん?」

ぽかんと言う板垣に、涼はようやく我に返ったのか、

「なんでもないです。失礼します」

と、短く言ってから通り過ぎる。


ふと……。


「あ、あの板垣先生」