雅哉の体はその衝撃で一瞬動いたあと、もう動かなくなった。

生け花のように、雅哉の体に無数の破片が刺さっていた。

「いやあああ!」

自分の声じゃないくらいの悲鳴を上げていた。

グイッと腕をつかまれる。

「やめて! いやぁ!」

逃れようと腕を振り回す。

「咲弥!」

私の腕をつかんでいたのは駿だった。

「とにかく逃げよう」

その声でハッとする。

下沼さんを見ると、ゆっくりとこっちに体を向けている。

その口元が。

ニヤリと笑った。
体中から鳥肌が浮き出る。

次の瞬間、下沼さんと私たちを隔てていたガラスが、

ガシャン!

というすごい音をして一気に砕けた。

「早く!」

駿に引っ張られるまま走り出す。

背中に視線を感じながらも、必死で走る。

足がうまく前に出ない。

雅哉まで!?

もう思考が追いつかない。


どうしてこんなことに!?


前を急ぐ駿の顔にも、振り向いた時に涙が見えた。

これは現実なの?
ようやく出口が見えたとき、これですべてが終わるような気がしていた。


だけど、外に出た私を待っていたのは、変わらない夜の遊園地だった。






















幕間
『白い部屋』





話しながらいつの間にかまた汗が出ていたようだった。

それでもミラーハウスの出来事が、今でもリアルに思い浮かんで寒気がした。

暑いのに寒い・・・。

雅哉の最期の光景は、これまで見た中でも一番痛々しく、今でもゾクゾクとした。


気づくと、目の前に白いハンカチがあった。


「あ・・・」

「良かったら使って」

藤森さんが悲しい顔で言った。

ビデオカメラの赤いランプはまだ光っている。

「・・・ありがとう」

それで額に浮かんでいた汗を拭きとる。

藤森さんはゆっくり立ち上がると、そのまま窓の方へ行った。

振りかえって、ぼんやりとそれを見る。

「辛いわね」

腕を組んで外の景色を見る。

「・・・」

「あなたを含めて7人いた友達が、これでもうふたりになってしまった。それもたった数時間で」

「はい」

うなだれる。


私だって信じたくない。


でも、実際に起きてしまった。

自分がこんな超常現象を体験するなんて思ってもいなかった。

「下沼さんは、本当に復讐をしているのかしら?」

窓越しの空を見ながら、女性は言った。

「え?」

「どんなことがあったとしても、それだけの人間を殺そうとするには深い事情があるわけでしょう? いったい何があったの?」

そう言って私を見る。


「それは・・・」


「きもだめしのとき、『私をいじめて楽しいのかな』って、下沼さんが言ったんでしょう?」

「はい」

「そんなにいじめられていたの?」

その言葉の意味を考える。
下沼さん・・・。

「たしかに、みんなからからかわれてはいました。でも、ばい菌扱いされたり無視されたり・・・。それをいじめと言えるのか・・・」

「本人がそう感じたなら、それはいじめになるわよ」

その言葉に顔を上げた。

女性がゆっくりと戻って来て、また目の前に座る。

「いつもそう。やってる方は気づかないの。でも、やられた方は覚えている。その憎しみを募らせるの」

「・・・でも」


でも、私はいじめていない。


そんな私がなんでこんな目に会うの?
言葉にしたかったけれど、うまく言う自信がない。


また黙って、自分の赤い服を見つめた。


「きもだめしの夜、なにかあったんじゃないの?」

「・・・」

「あなたが話してくれたのは、昨晩の出来事と、その前のきもだめしの話。きもだめしが、昨晩の出来事につながっているんじゃないかしら? その時になにかあったんじゃないの?」

きもだめし、という単語に胸が痛くなった。

「あの夜・・・」

目を閉じると、あのお化け屋敷での出来事が思い出される。

それは、悲しい記憶。


できれば話したくないけど・・・。