萌絵は何が起こったのかわからずに床から動かない。

叩かれた頬を押さえて目を開いている。

「雅哉!」

駿が声を発するが、雅哉は、
「うるせえ!」
と怒鳴った。

地響きがするかと思うくらいの大声。

その声に、萌絵が体を震わせたかと思うと、声を上げて泣き出した。

「言ったはずだ。殴ってでも付き合ってもらう。さっさと次行こうぜ」

そう言って大股で部屋から出てゆく。



残された部屋には、萌絵の泣き声だけが響いていた。