プロローグ
『白い部屋』



















「いつでもどうぞ」

目の前に座った女性は、口元に微笑みを浮かべてそう言った。


真っ白い部屋の真っ白な机で向かい合っている私たち。

他には誰もいない。

私の赤い服が、白で統一されているこの場所で浮いているようで恥ずかしくなる。

・・・もっと、地味な服で来ればよかったな。

人生初の取材。

私がこれから話すことが、週刊誌に掲載され、やがてそれは全国ニュースでも取り上げられるだろう。

目の前のインタビュアーは、40代くらいのきれいな女性。

頭の良さそうな顔つきを、ゆるいパーマがその印象をやわらげている。

藤森、と名乗ったその女性は、メモ帳を開いて私を見た。

急にわきあがる緊張。

取材なんて受けたことなのに、どうしよう。

「何を話せばいいんですか?」

そう尋ねると、藤森さんは軽くうなずく。

「あったこと全部話してもらえるかな?」

そう言いながら、右側に三脚で立ててあるビデオカメラを操作した。

ピッと電子音がして、録画の赤いランプが灯る。

「全部…」

「そう。はじめから順番に」

「…」

私がビデオの方を見ているのに気づいて、藤森さんは、
「ああ」
と笑った。

「これは記録用だから、気にしないで。あとで文字に起こすときに必要なだけだから」

そんなこと言われても・・・。

録画されていることで余計に緊張はするって・・・。

「私、こういうインタビューってはじめてで…」

「うんうん」

分かる、という感じでうなずく。

「あんなことが起きてすぐだもんね。つらかったよね」

「…はい」

思い出すと頭が混乱する。

いったい、昨夜の出来事は何だったのか…。

夢のようにも思える。

夢だったら、と願う。


ひとつため息。

あの数時間の事を、どんなふうに話せばよいのだろう。

あまりにも現実味がなく、あれよあれよという間にこうして取材を受けている。

話し出さない私を見て、藤森さんは困ったように首をかしげた。

「じゃあ、私が聞くから答えてくれるかな?」

「はい」

それならできそう。

にっこり笑うと、藤森さんは宙を見上げた。

「はじめに…。あの場所にどうやって行ったか、それは覚えている?」


はじめに…。

記憶をたどる。

昨夜の出来事なのに、いろいろあったせいですぐには思い出せない。

たしか・・・あれは・・・。

「…バスです」
「バス?」

「そう。なんだか変な話ですけど…。目が覚めたらバスに乗っていたんです」

「自然に目が覚めたの?」

そう尋ねられて、私は記憶に集中する。

「いえ…。たしか、萌絵が私を起こしたと思うんです」

「萌絵さん…。ああ、この子ね」

藤森さんが手元から写真の束を取り出して、私に見せた。

フェイスブックの表紙に萌絵が使っていた写真だ。

大きく引き伸ばしているから、画像が悪い。

マスコミの人って、こういう資料を集めるのは得意なんだろうな。

その用意の早さに驚いた。