やっぱ半径1メートル以内、立入禁止。

「………25日の、ご予定は?」






「は?」







蓮見はきょとんとした顔で目を上げた。







「25日って、12月の?」






「………うん、まぁ」






「そんなん、どうせ夜中まで残業に決まってんだろ?

年末は4月の新商品の追い込みだろ」






「…………ですよね〜」







あたしはあははと笑った。






ーーーええ、もちろん、分かってましたとも。




蓮見のカレンダーに『クリスマス』なんて行事は掲載されてないことくらい。




あるのは仕事の予定だけなんでしょ、どうせ。






ええ、ええ、分かってましたとも。




べつになーんにも期待なんてしてませんとも。






あたしはクリスマスのことは忘れることにして、片手で頬杖をついて蓮見の食事風景をぼんやり眺める。






ーーーあ、箸の持ち方、きれいだな。




節の目立つ長い指で、器用に箸を扱う様子は、女の子たちが騒ぐのも頷けるくらい、洗練されていた。






そんなことを考えながら見つめていると。







「あ、そーいやさ、清水」






「んー?」






「お前、今週の日曜日、ヒマ?」






「んー………えっ!?」







予想だにしなかった蓮見の言葉に、あたしは思わず声を上げた。






ーーーなになに、もしかして、デートのお誘い!?




蓮見なのに!?







でも、そんなことを一瞬でも期待したあたしが、馬鹿でした。







「クリスマス商戦の市場調査に行くから、お前、付き合えよ」







蓮見は平然とそう言い、唐揚げ定食を食べ終えて箸を置いた。







ーーーですよねー。




蓮見は仕事の鬼ですもんね。





てゆーか、仕事を中心にして蓮見の世界は回ってるんですもんね。







………いーよ、もう。





市場調査でも遺跡調査でも、付き合ってやろうじゃないの。






あたしだって、仕事はきらいじゃないし。






でも、一瞬でも期待してしまっただけに。




あたしはなんとなく脱力した気分のまま、トレイを持って食器返却口に向かう蓮見の背中を追った。















「おっせーぞ、清水!!

やる気あんのか!?」







………はい、これが、日曜日に恋人と二人で会う待ち合わせ場所で、開口一番に蓮見が言うセリフです。







「10分前待機、5分前行動開始!!


仕事の常識だろうが!!」







………いや、今日は別に仕事じゃないじゃん。






てゆーかね。



あたしだって、付き合ってる相手と休日に会うってなったら、それなりにファッションとかヘアスタイルとか気にするんですけど!?






それで待ち合わせ時間3分前に着いたんだから、充分えらくない!?








今日は、蓮見いわく『クリスマス商戦の市場調査』の日。






市場調査なんて言いつつ、やっぱり実はデートのつもりなんじゃ………。





なんて儚い幻想を抱いていた数分前までのあたしよ、あんたの考えは金平糖より甘い!!







「おら、なにぼーっとしてんだよ。


さっさと行くぞ。


まずは東◯ハンズだ」







「………へいへい」







あたしは言い返す気力もなく、すたすたと歩き出した蓮見の後を追った。






どうやら、いつものオフィスルックとは違うあたしの私服も、蓮見にとっては眼中にないらしい………。





かわいそうなワンピース。








蓮見に引っ張られて、付近で文房具を扱っている店を回る。





蓮見は筆記具コーナーの隅っこで偉そうに腕組みをして立ち、客層や客の動き、どんな客がどんな商品を手に取るのかをじっと観察。




あたしはその隣で、蓮見が言う通りに手帳にメモをとっていく。





…………デートなんて程遠い雰囲気。




いいですけどね。



なんせ相手は仕事バカの蓮見。





あたしはこっそり溜め息を洩らして、隣に立つ蓮見を横目でちらりと見る。







まともな私服の蓮見は初めて見たけど。






ーーー悔しいけど………かっこいいじゃないか。





背が高くてすらりとしたスタイルに、細身のジーンズとワインレッドのジャケットが、むかつくくらい似合っている。





現に、商品を物色中の若い女の子や、子連れのおばさまたちが、どこかそわそわした様子で蓮見の姿をちらちら見ている。





確かに外見は芸能人並みに見えるかもしれませんけどね、中身はそれはもう、アレなんですよ。




だから、あんまり見ないでくれます?






いちおう、あたしの彼氏ですし。







なんて考えていると。






ーーーごつんっ。






「いったぁ!?」






いきなり頭を殴られて、あたしは声を上げた。





視線の先に、不機嫌丸出しの蓮見の顔。







「ぼさっとしてんなよ、清水!!

今俺が言ったことメモしたか!?」






「………すみません。

聞いてませんでした。なんでしょうか?」






「………ほほう?

俺に二度手間かけるとは、いい根性してんじゃねえか? あぁん?」






「ごめんなさい、すみません、蓮見さま、お許しください」







………うう、怖い。




めっちゃ睨まれてる、あたし。






そんなふうに、貴重な休日だというのにいつも通り蓮見にこき使われつつ……。




あたしたちは近辺の雑貨屋や本屋の文具コーナーを回った。






ある大手小売チェーンの入っているデパートを出ると、外はすっかり暗くなっていた。






「おう、もうこんな時間か」






蓮見が腕時計を見て、小さく言う。





やっと終わりか、とあたしが期待に胸を膨らませていると。







「次で最後にするか」






という蓮見の一言にうなだれた。




どこまでも妥協しないやつ!!