無事に当初予定していた案件を片付けた俺達はそろそろサナールの診療所の事が気になりだして領都に戻る事にした。
馬車の手配を済ませて護衛の依頼を斡旋して貰うためにギルドを訪れた俺達を待っていたのは笑顔のラーズギルドマスターだった。
「少し時間を貰えるかな?」
有無を言わさない威圧で俺達は第一応接室へと案内された。
いったい何の話だろうか? まともな話ならばいいのだが。
「先日はどうも。明日サナールへ戻るんだって?」
「はい。こちらでの用事が済みましたし、そろそろ診療所の方も心配になってきましたので向こうに戻ろうと思ってます」
「そうか、こちらの用件は二つあるんだが、まず先日リリス君に絡んだ奴らの事だ。昨日、町の警備から連絡があったんだがギルドの受付嬢がチンピラに絡まれて連れ去られそうになっていたのをナオキ君と警備隊が助けたとあった。公式ではリリス君は結婚退職をしたとなっているが、警備隊にはその事を知らない者も多くおり、ギルド本部に喧嘩を売った奴らとして厳しく調べたらしい」
「それで奴らはどうなったのですか?」
あの時、トドメをさせなかった俺は男達が警備に連れて行かれた後の事は知らず、少しばかり気にはなっていた。
「警備によると余罪が多数出てきたらしく鉱山の強制労働送りになったそうだ」
「そうですか。まあ、リリスに暴力をふるった奴らの処遇としては甘いかもしれないが、今度俺達の前に現れたら問答無用で消えて貰おうと思います」
俺のセリフに苦笑いするラーズだった。
「それと、こっちが本命の依頼なんだが……」
ラーズはそう言いかけておいて口ごもった。
「何か言いにくい事なんですか?」
「いや、まあ、そうだな。実はナオキ君に治療して欲しい人が居るんだが……うーん」
治療依頼にしてはラーズの歯切れが悪く、内容もなかなか的を射た話に向かなかった。
「もしかして、治療して欲しい人って奥様か娘様ですか?」
ラーズの態度にリリスがピンときて横から話に入ってきた。
「な、何故それを!?」
あからさまに動揺するラーズ。
「だって、ラーズギルマスは受付嬢の間でも愛妻家として有名ですし、お嬢さんも溺愛していると聞いてますから、たとえ怪我や病気でも死ぬようなものじゃなければナオキの治療方法は認めたくないと思いますからね」
リリスの言葉に俺も苦笑いをする。
「俺も自分の好みでこの治療方法をしている訳じゃないよ。女神様の深い考えで与えてくれた魔法なんだから俺は誇りを持って治療をさせて貰ってるだけだよ」
「もちろん私は理解してるわよ。でなければただの変態治癒士として軽蔑しててもおかしくないわ」
リリスはさらりと俺をディスりながらラーズに聞いた。
「で、どちらなんですか?」
「………妻だ。実は今日の夜にカルカルの有力者が集まって会合と晩餐会があるのだが、当然ながら同伴者の出席も必須で私と妻も出席の予定だった。だが、よりにもよって昨日の夜に階段を踏み外して腰をやってしまってな。ベッドから起き上がる事も出来んのだよ。今回の晩餐会は知り合いも多数出席する事もあって妻は大層楽しみにしていたんだよ」
「分かりました。俺が治しますので奥様に会わせて頂けますか?」
俺がそう言うとラーズは「いやまて」と席を立とうとする俺を静止する。
「君の治癒魔法が優秀なのは良く知っているが治すためにはアレだろ? 妻の胸を揉まないと治せないんだろ?」
「いや、全員胸を触っているわけじゃありませんから。あくまで胸に病気を抱えている人だけですから。奥様の場合は腰の治療なので腰に触れさせて頂ければ治りますから!」
もはや定番となったツッコミをしながら俺はラーズに言った。
「そ、そうなのか? てっきりどんな怪我も胸を揉まないと駄目かと思っていたよ」
「だから誤解ですってば」
「いや、すまない。ならば是非とも頼む」
ラーズはそう言って俺に頭を下げて頼んできたのだった。
◆
「初めまして、治癒士のナオキと申します。治療には患部に触れる必要がありますのでその点はご了承ください」
俺がそう説明すると婦人は軽く頷いて俺に背を向けた。
「では、患部である腰に触れさせて頂きます。完全治癒」
俺の手が淡く光を帯びると夫人の表情が少し落ち着きを見せる。
「腰の痛みはいかがですか?」
俺の問いに婦人は腰に手を当てて確認すると穏やかな表情で答えてくれた。
「随分と楽になりました。起き上がるだけでも痛みがありましたので助かりました」
夫人はそう言って身体の向きを変えると床に足をついてベッドから立ち上がって見せた。
「お、おい。いきなり立ち上がっても大丈夫なのか?」
隣で見ていたラーズが少し慌てたように夫人に声をかける。その表情から本当に夫人を心配しているのが見て取れた。
「大丈夫ですよ。なんだか怪我をする前よりも腰も足も軽い気もしますから」
夫人はそう言ってその場でくるりと身体を回転させて見せたのだった。
◆
「――妻の治療をしてくれてありがとう。今回痛めた腰だけでなく、目尻のシワが目立たなくなったと喜んでいたよ。まさか、君の治癒魔法は女性を若返らせる効果があるんじゃないだろうね?」
「ははは、まさか。そんな事が出来たら国中の女性が殺到して大変な事になるじゃないですか。へんな噂は流さないでくださいね」
俺は顔を引きつらせながらラーズに念を押すとラーズ邸宅を後にしたのだった。
馬車の手配を済ませて護衛の依頼を斡旋して貰うためにギルドを訪れた俺達を待っていたのは笑顔のラーズギルドマスターだった。
「少し時間を貰えるかな?」
有無を言わさない威圧で俺達は第一応接室へと案内された。
いったい何の話だろうか? まともな話ならばいいのだが。
「先日はどうも。明日サナールへ戻るんだって?」
「はい。こちらでの用事が済みましたし、そろそろ診療所の方も心配になってきましたので向こうに戻ろうと思ってます」
「そうか、こちらの用件は二つあるんだが、まず先日リリス君に絡んだ奴らの事だ。昨日、町の警備から連絡があったんだがギルドの受付嬢がチンピラに絡まれて連れ去られそうになっていたのをナオキ君と警備隊が助けたとあった。公式ではリリス君は結婚退職をしたとなっているが、警備隊にはその事を知らない者も多くおり、ギルド本部に喧嘩を売った奴らとして厳しく調べたらしい」
「それで奴らはどうなったのですか?」
あの時、トドメをさせなかった俺は男達が警備に連れて行かれた後の事は知らず、少しばかり気にはなっていた。
「警備によると余罪が多数出てきたらしく鉱山の強制労働送りになったそうだ」
「そうですか。まあ、リリスに暴力をふるった奴らの処遇としては甘いかもしれないが、今度俺達の前に現れたら問答無用で消えて貰おうと思います」
俺のセリフに苦笑いするラーズだった。
「それと、こっちが本命の依頼なんだが……」
ラーズはそう言いかけておいて口ごもった。
「何か言いにくい事なんですか?」
「いや、まあ、そうだな。実はナオキ君に治療して欲しい人が居るんだが……うーん」
治療依頼にしてはラーズの歯切れが悪く、内容もなかなか的を射た話に向かなかった。
「もしかして、治療して欲しい人って奥様か娘様ですか?」
ラーズの態度にリリスがピンときて横から話に入ってきた。
「な、何故それを!?」
あからさまに動揺するラーズ。
「だって、ラーズギルマスは受付嬢の間でも愛妻家として有名ですし、お嬢さんも溺愛していると聞いてますから、たとえ怪我や病気でも死ぬようなものじゃなければナオキの治療方法は認めたくないと思いますからね」
リリスの言葉に俺も苦笑いをする。
「俺も自分の好みでこの治療方法をしている訳じゃないよ。女神様の深い考えで与えてくれた魔法なんだから俺は誇りを持って治療をさせて貰ってるだけだよ」
「もちろん私は理解してるわよ。でなければただの変態治癒士として軽蔑しててもおかしくないわ」
リリスはさらりと俺をディスりながらラーズに聞いた。
「で、どちらなんですか?」
「………妻だ。実は今日の夜にカルカルの有力者が集まって会合と晩餐会があるのだが、当然ながら同伴者の出席も必須で私と妻も出席の予定だった。だが、よりにもよって昨日の夜に階段を踏み外して腰をやってしまってな。ベッドから起き上がる事も出来んのだよ。今回の晩餐会は知り合いも多数出席する事もあって妻は大層楽しみにしていたんだよ」
「分かりました。俺が治しますので奥様に会わせて頂けますか?」
俺がそう言うとラーズは「いやまて」と席を立とうとする俺を静止する。
「君の治癒魔法が優秀なのは良く知っているが治すためにはアレだろ? 妻の胸を揉まないと治せないんだろ?」
「いや、全員胸を触っているわけじゃありませんから。あくまで胸に病気を抱えている人だけですから。奥様の場合は腰の治療なので腰に触れさせて頂ければ治りますから!」
もはや定番となったツッコミをしながら俺はラーズに言った。
「そ、そうなのか? てっきりどんな怪我も胸を揉まないと駄目かと思っていたよ」
「だから誤解ですってば」
「いや、すまない。ならば是非とも頼む」
ラーズはそう言って俺に頭を下げて頼んできたのだった。
◆
「初めまして、治癒士のナオキと申します。治療には患部に触れる必要がありますのでその点はご了承ください」
俺がそう説明すると婦人は軽く頷いて俺に背を向けた。
「では、患部である腰に触れさせて頂きます。完全治癒」
俺の手が淡く光を帯びると夫人の表情が少し落ち着きを見せる。
「腰の痛みはいかがですか?」
俺の問いに婦人は腰に手を当てて確認すると穏やかな表情で答えてくれた。
「随分と楽になりました。起き上がるだけでも痛みがありましたので助かりました」
夫人はそう言って身体の向きを変えると床に足をついてベッドから立ち上がって見せた。
「お、おい。いきなり立ち上がっても大丈夫なのか?」
隣で見ていたラーズが少し慌てたように夫人に声をかける。その表情から本当に夫人を心配しているのが見て取れた。
「大丈夫ですよ。なんだか怪我をする前よりも腰も足も軽い気もしますから」
夫人はそう言ってその場でくるりと身体を回転させて見せたのだった。
◆
「――妻の治療をしてくれてありがとう。今回痛めた腰だけでなく、目尻のシワが目立たなくなったと喜んでいたよ。まさか、君の治癒魔法は女性を若返らせる効果があるんじゃないだろうね?」
「ははは、まさか。そんな事が出来たら国中の女性が殺到して大変な事になるじゃないですか。へんな噂は流さないでくださいね」
俺は顔を引きつらせながらラーズに念を押すとラーズ邸宅を後にしたのだった。



