いつもの朝が来て、そろそろ起きなければならない時間が迫っていたがなんとなく気まずい気持ちが湧き上がってきて俺はゴロゴロと寝返りを繰り返していた。
原因は分かっている。昨夜リリスが最後に言った言葉が気になってあまり眠れなかったからだ。
まあ、そういう事なんだろうけど歳も離れているし、からかわれている可能性も否定出来ないから迂闊な行動はしないように心がけよう。
天井を眺めながらそういう考えに行き着くとガバッと起き上がり食堂へ向かった。
「――おはようございます」
食堂に降りた俺はまずリリスの姿を探すがまだ起きていないのかいつもの席には座っていなかった。
――先に来ていないなんて珍しいな。
時間に対して几帳面な彼女が居ないことを気にしながらいつもの席について朝食を頼むとウエイトレスの女性がメモを渡してきた。
なんだ?
そのメモには可愛らしい丸っこい文字でこう書かれていた。
『おはようございます。朝一番でギルドに行く用事が出来ましたので役所への訪問は午後からに変更をお願いします。
――リリスより』
なんだ、リリスはギルドに用事で出ていたのか。きっと俺が時間ギリギリにならないと出て来ないから待てなくてメモを預けていったんだろう。
俺はリリスの顔が見られなかった事に残念な気持ちと良かったという気持ちが絡み合っているのを感じ、頭を軽く振って運ばれてきた朝食をゆっくりと食べた。
「さて、午前中の時間が空いた訳だが何をしようかな……」
診療所の改装も役所の手続きもリリスにお任せをしていた手前、俺は予定がまるまる空いてしまうと何をしたら良いか分からなくなっていた。
何もしないで部屋でゴロゴロしていても良いけど街を散策しても良いだろう。
どうしようか考えているといきなり後ろから声がかかった。
「ナオキ様。こちらにいらしたのですね」
俺が振り向くとそこには伯爵家侍女長のミリーナが笑顔で立っていた。
「ミリーナさん。どうされたのですか? もしかして奥様の容体になにか変化があったから俺を探していたとかですか?」
病気は完治したと思っていたが、何か不具合があったのかと少し焦りながらミリーナに聞く。
「いえいえ、奥様の方は全く問題なくお元気に活動されていますわ。それどころか肌の張りも良くなったと喜んでおられましたよ」
その言葉にホッとした俺は、ならどんな用件で俺を探していたのかとミリーナに聞いた。
「今、ナオキ様が準備を進めておられる診療所の件で物件の変更をされたと聞きましたのでその確認と変更の許可証をお渡ししようと思いまして探していたのです」
ミリーナはそう言うとカバンから書類を出して俺に渡してくれた。それを受け取りながら俺はミリーナにおずおずと聞いてみた。
「あの、伯爵様は物件の変更について機嫌を損ねられてはいませんでしたか? なんの相談もしないで変更したので気にはなっていたのですが、あの物件は大きすぎて俺のイメージからはかけ離れていたんです」
俺の言葉にミリーナはニッコリと笑って言った。
「大丈夫ですよ。伯爵様はその程度では機嫌を損ねたりはしませんよ。今回の件だって、伯爵様の思い込みによって選んだ物件でしたから理由をきちんと話せば納得されていましたから。ところで……」
大丈夫ですよの言葉にホッとした俺にミリーナが「リリスさんはご一緒ではないのですか?」と聞いて来た。
「彼女なら斡旋ギルドに行っているみたいですよ」
「そうなんですね。ナオキさんの依頼を受け付けたのは彼女なんですよね?」
「はい。こちらのギルドで困っていた俺の話を聞いてくれて、登録から手配まで全て引き受けてくれているんです。本当にありがたいです」
「登録はともかく手配も手伝ってるのですか? 彼女、斡旋ギルドの受付嬢でしたよね? 基本的に受付嬢は登録の処理のみで自分で依頼を受ける事はタブーだったと記憶しているのですが、その辺りは大丈夫なんでしょうか?」
その言葉に俺の背中に冷や汗が流れるのが分かった。リリスは確かに限りなくグレーだと言っていたが、あくまで彼女の判断での事で。厳密にルールに照らし合わせれば違反になるのかもしれない。
マズイ事を話したかな?
ミリーナは伯爵様の侍女長をしていると話していたので今回の件は間違いなく伯爵様に伝わるだろう。
俺のせいでリリスさんに迷惑がかかるならばミリーナさんに口止めを打診するべきだろうか?
そんな事を悩んでいると宿のドアベルが鳴った。
「あっ、まーだ朝食を食べてたの? 役所に行くのが午後になると言ったら本当にのんびりしてるのね」
声のする方を見るとリリスが呆れた顔で立っていた。
「リリスさん。ギルドに行ったんじゃなかったのですか?」
「行ったわよ。もう用事は済んだから朝食が終わったら役所に行けますよってミリーナさんじゃないですか。ミリーナさんもナオキさんに用事ですか?」
リリスの登場にミリーナの目が鋭く光り、スッと立ち上がるとリリスに話しかけた。
「リリスさん。少しお話を聞かせて貰えますか?」
ミリーナの表情はこちらからはよく見えなかったが、和やかな雰囲気ではなさそうだった。
原因は分かっている。昨夜リリスが最後に言った言葉が気になってあまり眠れなかったからだ。
まあ、そういう事なんだろうけど歳も離れているし、からかわれている可能性も否定出来ないから迂闊な行動はしないように心がけよう。
天井を眺めながらそういう考えに行き着くとガバッと起き上がり食堂へ向かった。
「――おはようございます」
食堂に降りた俺はまずリリスの姿を探すがまだ起きていないのかいつもの席には座っていなかった。
――先に来ていないなんて珍しいな。
時間に対して几帳面な彼女が居ないことを気にしながらいつもの席について朝食を頼むとウエイトレスの女性がメモを渡してきた。
なんだ?
そのメモには可愛らしい丸っこい文字でこう書かれていた。
『おはようございます。朝一番でギルドに行く用事が出来ましたので役所への訪問は午後からに変更をお願いします。
――リリスより』
なんだ、リリスはギルドに用事で出ていたのか。きっと俺が時間ギリギリにならないと出て来ないから待てなくてメモを預けていったんだろう。
俺はリリスの顔が見られなかった事に残念な気持ちと良かったという気持ちが絡み合っているのを感じ、頭を軽く振って運ばれてきた朝食をゆっくりと食べた。
「さて、午前中の時間が空いた訳だが何をしようかな……」
診療所の改装も役所の手続きもリリスにお任せをしていた手前、俺は予定がまるまる空いてしまうと何をしたら良いか分からなくなっていた。
何もしないで部屋でゴロゴロしていても良いけど街を散策しても良いだろう。
どうしようか考えているといきなり後ろから声がかかった。
「ナオキ様。こちらにいらしたのですね」
俺が振り向くとそこには伯爵家侍女長のミリーナが笑顔で立っていた。
「ミリーナさん。どうされたのですか? もしかして奥様の容体になにか変化があったから俺を探していたとかですか?」
病気は完治したと思っていたが、何か不具合があったのかと少し焦りながらミリーナに聞く。
「いえいえ、奥様の方は全く問題なくお元気に活動されていますわ。それどころか肌の張りも良くなったと喜んでおられましたよ」
その言葉にホッとした俺は、ならどんな用件で俺を探していたのかとミリーナに聞いた。
「今、ナオキ様が準備を進めておられる診療所の件で物件の変更をされたと聞きましたのでその確認と変更の許可証をお渡ししようと思いまして探していたのです」
ミリーナはそう言うとカバンから書類を出して俺に渡してくれた。それを受け取りながら俺はミリーナにおずおずと聞いてみた。
「あの、伯爵様は物件の変更について機嫌を損ねられてはいませんでしたか? なんの相談もしないで変更したので気にはなっていたのですが、あの物件は大きすぎて俺のイメージからはかけ離れていたんです」
俺の言葉にミリーナはニッコリと笑って言った。
「大丈夫ですよ。伯爵様はその程度では機嫌を損ねたりはしませんよ。今回の件だって、伯爵様の思い込みによって選んだ物件でしたから理由をきちんと話せば納得されていましたから。ところで……」
大丈夫ですよの言葉にホッとした俺にミリーナが「リリスさんはご一緒ではないのですか?」と聞いて来た。
「彼女なら斡旋ギルドに行っているみたいですよ」
「そうなんですね。ナオキさんの依頼を受け付けたのは彼女なんですよね?」
「はい。こちらのギルドで困っていた俺の話を聞いてくれて、登録から手配まで全て引き受けてくれているんです。本当にありがたいです」
「登録はともかく手配も手伝ってるのですか? 彼女、斡旋ギルドの受付嬢でしたよね? 基本的に受付嬢は登録の処理のみで自分で依頼を受ける事はタブーだったと記憶しているのですが、その辺りは大丈夫なんでしょうか?」
その言葉に俺の背中に冷や汗が流れるのが分かった。リリスは確かに限りなくグレーだと言っていたが、あくまで彼女の判断での事で。厳密にルールに照らし合わせれば違反になるのかもしれない。
マズイ事を話したかな?
ミリーナは伯爵様の侍女長をしていると話していたので今回の件は間違いなく伯爵様に伝わるだろう。
俺のせいでリリスさんに迷惑がかかるならばミリーナさんに口止めを打診するべきだろうか?
そんな事を悩んでいると宿のドアベルが鳴った。
「あっ、まーだ朝食を食べてたの? 役所に行くのが午後になると言ったら本当にのんびりしてるのね」
声のする方を見るとリリスが呆れた顔で立っていた。
「リリスさん。ギルドに行ったんじゃなかったのですか?」
「行ったわよ。もう用事は済んだから朝食が終わったら役所に行けますよってミリーナさんじゃないですか。ミリーナさんもナオキさんに用事ですか?」
リリスの登場にミリーナの目が鋭く光り、スッと立ち上がるとリリスに話しかけた。
「リリスさん。少しお話を聞かせて貰えますか?」
ミリーナの表情はこちらからはよく見えなかったが、和やかな雰囲気ではなさそうだった。


