転生したらHP10000だった。


 それにしても、シーニャンさんがそんなに偉いなんて思わなかったなぁ。
 王様も“礼を尽さなければいけない”っていう相手なんだろうな。
 そんな話を聞いていたら、扉がノックされて陛下と王妃様が入ってきた。
 おお、やっぱり呼びに行っていたんだ。

「これは、これは……。朱雀領の大巫女姫様。この度は――」
「くだらぬ挨拶は不要」

 冷たい声。
 驚いて見上げたら、シーニャンさんはどこからともなく扇を取り出して、口元を隠してソファーに座った王様と王妃様を睨むように見つめる。
 さっきまで私に向けていた笑顔も柔らかな空気もなにもない。
 え? シーニャンさん……だのね? 別人?

「こんな幼児を朱雀領に一人で来させて、加護についてを朱雀様に直にお聞きする。王子はどうした? 呪われているなどと噂があるのなら私に見せに連れてくるものではないのか? 報告は聞いておろう? この子はお前らの願いを叶える力はないぞ」
「……それは、もちろん……報告を受けております」

 あ、あれ? なんか……王様が、王様と話してる時の父様みたいになってる?
 へこへこ、っていうか。
 シーニャンさんの方が、偉い?

「イリヤは我らが女神ブロントズウェール様と同格以上の神格を持つ星の女神の加護を受けている。そして、そなたらのような神の加護を私欲で使おうという者たちに悪用されぬように配慮までさせて。なんとも見透かされておって笑えることよ。そう思わぬか、カルヴァの王と王妃よ」
「それは――」
「そなたらのそういうところが、カルヴァの守護神に認められぬ要因だろうよ」
「っ!」

 フッと鼻を抜けるような笑う声。
 途端に国王陛下がシーニャンさんをものすごい顔で睨みつけた。
 あまりの顔に、ビクッと肩が跳ねる。
 体がガタガタと震えて、隣に座っている母様にしがみついてしまう。
 シーニャンさんはなんであんなに平気そうなの……!?

「守護神に……認められて、いない……!? どういうことですかな、姫様」
「私のようなものが見ればひと目でわかる。王家の縁者なのは間違いないが、守護神にはこの国の王と認められていない。ああ、そうか。その王子とやらは、守護神に認められているのだな」
「っ」

 陛下が立ち上がる。
 しかし、すぐにゆっくりとソファーに座り直した。

「朱雀領の大巫女姫様とはいえ、一国の王家の実状に干渉してくるのはいささか立ち入りすぎでありませんかな?」
「そうだな。ここだけの話としておこう。イリヤも今日のお話はお外で誰にも言ってはならんぞ。シー、だ」
「し、シー」
「そうだ。だが、この国を支える公爵家にはちゃんと話を通しておくことを“助言”しておくぞ、カルヴァの王よ」

 陛下はシーニャンさんを睨みつけたまま、「助言だと」と捨てるように言う。
 助言……助言って、その人のためになるようなことを言うこと、だよね?
 なんでまた声が怖いの……?

「主は周りが全部敵になっている。公爵……特にこのオルヴァーニュ公爵は、主がちゃんと信頼して頼れば力になってくれるだろう。そして真に王としての信頼を集めることができれば、守護神も主を王として認める。守護神がそう言っている」

 シーニャンさんの言葉に王様が睨みつけるというよりも、すぐに怒鳴りそうな顔になる。
 怖い。怖い。怖い……!

「そんなに信用ができないのなら、それでもいいだろう。私は朱雀様に宣誓し、この場で言ったことを外へ漏らすことはないと約束しよう」
「……私も朱雀様とカルヴァ王国の守護神様にこの場でシーニャン様がおっしゃっていたことは他言いたしません」
「わたくしも、朱雀様とカルヴァ王国の守護神様に他言しないことを誓いますわ」
「俺も、朱雀様とカルヴァ王国の守護神様に他言しないことを誓います」

 イリヤ、と母に促されて「イ、イリヤもすざくさまと、しゅごしんさまに、いわないってやくそくします」と震える声で絞り出すように言った。
 そしたら、やっと王様の表情は落ち着いたようだ。
 しかしすぐに、護衛の騎士や控えていたメイドを睨みつける。

「わ、私も」
「わ、私も……」
「全員宣誓しろ!」
「は、はい!」

 そこからは、一人一人父様たちと同じ言葉を告げていく。
 全員が言い終わってから、やっと背もたれにもたれかかる王様。

「今後主がどのように判断するか知らぬが、少なくとも王子の命を狙うのはやめることだ」
「なんの話ですかな」
「主は王座を得て安心したのかもしれぬが、王座に就くことは始まりにすぎぬ。主の王道が始まった、ということだ。その王道がどこに続くのかを定めるのは主本人。私は忠告したからな? イリヤの加護についても、報告は聞いているとのことでこの件はこれでしまいだな」

 シーニャンさんがそう言い放つと、陛下も、ずっと黙っていた王妃様も顰めっ面で溜息を吐いたり頭を抱えて「わかりました」と言った。
 えっと……つまり、私が他人の願いを叶えられないって、わかってくれた……って、こと?
 もう家族と引き離されたりしない?

「イリヤ嬢に願いを叶える力はない。了解した。しかし、グレンとの婚約は継続ということでよろしいか?」
「あ、はい!」
「よかったわ。あの子をどうぞよろしくね」
「は、はい」

 やっと、王妃様が微笑んだ。
 さっきまで王様がすごく怖かったから……。
 でも、やっぱり、なんか……違和感がある。
 王妃様の笑った顔、安心してるんだけれど……なんだろう? この、違和感。