転生したらHP10000だった。


「本当に呪われているのであれば、成長しても呪いそのものを消さねば意味はないぞ? 不幸に見舞われる呪いか、不幸を呼び寄せる呪いか……どちらもないこともないが、直接見なければなんとも言えぬな」
「イリヤの加護について報告する時に、グレン王子のことを見てもらえばわかるかな?」
「そうだな。だが、呪いというのは呪いをかけた者がいるということ。一国の王子であれば呪い殺してやろうという考えの者もいるだろうが……聞けばこの国の王子は一人しかいないのだろう? 他の王位継承者もいないのに、たった一人の後継ぎを殺したいものだろうか?」

 難しい話してる……。
 グレン王子、えっと、呪いで命を狙われている、ってこと?
 そうかな? そうなの?
 でも、暗愚の森から出てきた時も、お城で狙われた時も、呪いというか……人間に狙われているんじゃないのかな?

「国内にいなくても国外にいるかもな」
「それは――」
「ま、国のことだ。そういうのを調べる専門部署みたいなのがあるだろう? 頑張れよ、エドレッド!」
「ぐ」

 モーリスさん、爆笑しながら騎士団長さんの背中をバシバシ叩く。
 アルド兄様がものすごく嫌そうな顔をしている。
 シーニャンさんは……無表情。
 グレン王子はやっぱり命を狙われているのかな。
 この国の人ではなく、他の国の人に。
 でもそれだけなのかな?
 グレン王子の目は前世の私と同じ。
 王様と王妃様も、グレン王子を見る目は……自分の子どもじゃない、厄介者を見る目だった。

「どちらにしても国の守護神の加護が王族を守るはずだ。呪われてたって問題ないだろ」
「そ、そう、だな。今だけ、だろうな」
「はあ……」

 兄様の疲れ果てたような深い溜息。
 店員さんが私の選んだバタークッキーの箱を包み、サリィに手渡してくれた。
 シーニャンさんがお土産を発注し終えてクッキー屋さんを出る。
 他のお店も見る? とアルド兄様に聞かれたけれど、なにを見ればいいのかよくわからない。
 モーリスさんが「こういう時は服でも靴でも女が好きなもんを買ってやるもんだぞ」とアルド兄様の肩に腕を回す。
 だがシーニャンさんは「この国の服は好かぬ」と一刀両断。
 困ったような顔の兄様は「イ、イリヤは?」と聞いてくるけれど、正直、精神的に疲れた。
 自分の好みの服があるのかどうか興味があったけれど、早く帰ってクッキーにつける手紙を書きたい気持ちが上回っている。
 貴族街の人の多さも、なんか緊張してしまったし。

「イリヤ、おうちかえりたい、かも……」
「私ももう疲れたから休みたいな。他国の街並みは存外人が多くて気疲れする。薬丸について朱雀領に手紙も書きたいし」
「そう? それじゃあ帰ろうか」
「おいおい、なんだよもう帰るのかー?」
「ほう。モーリスは元気そうだなぁ。それなら私の護衛をアルドと交代してもらおうか。アルドは冒険者協会に行きたいと言っていたしな」
「げ」
「シーニャン殿……!」

 まったく真逆な表情。
 騎士団長さんは「お前が受けた仕事直だろう? しっかりやれよ」とさっきのお返しとばかりにモーリスさんの背中をバシン! と叩く。

「しかし、アルドはいいのか? 自宅待機を命じられているのだろう?」
「よいよい、バレねばいい。四六時中屋敷に私とともに詰めていたら息も詰まるだろう。騎士団長であっても冒険者のアルドの自由を縛る権利はあるまいて」
「う……そ、それは……確かに」
「シーニャン殿~!」

 感動で涙まで浮かべるアルド兄様。
 シーニャンさん、強い……!

「だが、せっかく他国に来たのだし、なにかこの国でしかできぬようなことや見れぬものを見たいな。そういうのはないのか?」
「それでしたら、観劇はいかがでしょうか? 朱雀領にあるのでしたら申し訳ないですが」
「観劇……。そうだな、この国とは違う演目であろう。面白そうだ。この国の文化に直接触れられそうだな」

 イリヤはどうする、とシーニャンさんが私を見下ろしてくる。
 かんげきってなんだ?

「観劇は劇を観ることだ。劇はわかるか? お芝居だ。朱雀領でもお芝居はあるが、この国ではこの国の物語が劇になっているのではないか?」
「うん。今どんな劇が上映されているのかは、ルシオス兄様に聞けばわかると思う。そういうのはルシオス兄様の方が圧倒的に詳しいし」
「それでは帰宅後ルシオス様にお聞きしましょう」

 “いぎ”なし!
 ということで、アルド兄様と騎士団長さんと別れて帰宅。
 シーニャンさんは「朱雀領に薬丸の原材料を送ってもらう手紙を書かねばならん」と言って離れに戻り、私もグレン王子に手紙を書くつもりだったので部屋に戻った。
 便箋と封筒をサリィが用意してくれて、下書きをして、できる限り綺麗な文字で清書。
 自分ではそこそこのもんだと思うのだけれど……やっぱり文字、少し歪んでる、かなぁ?

「グレンおーじ、のろわれてるのかなあ?」

 書き終えて、無意識に漏れていた心の声。
 サリィがすぐに「お嬢様、それは……」と言ったのでハッとした。

「ひとがいるところではなしたらだめなんだよね」
「はい。さすがに……少々不謹慎、かと」
「うん……グレンおーじに、ちょくせつきくのも……だめだよね……」
「ご本人も気にしておられると思われますので、そうですね」

 そうだよね。
 本人が一番、不安に思っているよね。

「イリヤがのろいにもつよくなって、グレンおーじをまもってあげればいいのかな」
「お嬢様……」