転生したらHP10000だった。


「実に興味深いものが発明されたようですね。このような場に居合わせられたことを、大変光栄に思います。完成が楽しみですね」
「うむ。私もだ」
「それで、そちらの女神のご加護を受けたという才女は――」
 
 あ、そうか。
 私はまだ騎士団長さんに自己紹介をしていなかったんだ。
 改めて、スカートの裾を摘む。
 
「はじめまして。アルドのいもうとで、イリヤ・オルヴァーニュともうします」
「ほお……。妹さんがいるのは知っていたが、この才女がそうだったのか。素晴らしい妹さんだ」
「そうでしょう! そうでしょう!」
 
 ドヤ顔の兄様。
 なんかすっごく褒められている。
 えへへ、なんか嬉しい。
 でも、騎士団長さんは少し前世の、お母さんの再婚相手に似ている。
 多分、(ひげ)
 髭の形が、あの人に似ている。
 でももう私は前世に負けないって決めているから、しっかりと向き合う。
 
「私はエドレッド・ジザックスと申します。どうぞお見知り置きを」
「はい。よろしくお願いします」
「幼いのに立派な淑女でいらっしゃる。しかし、朱雀領の大巫女姫がなぜカルヴァ王国に?」
「イリヤの加護について、国王に報告してやろうと思ってな。子どもの言うことを歪曲に受け取る王では困る」
「なるほど。さすがは朱雀領の大巫女姫様。お優しく、思慮深くてらっしゃる」
 
 そう言って騎士団長さんはシーニャンさんへ頭を下げる。
 なんというか、これが……紳士か!
 かっこいい!
 あ、そうだ! 私、グレンにお土産を買って行こうと思っていたんだ!
 チョコレートクッキーは……まだ完成してないからダメだよね。
 朱雀領のお土産でお煎餅を買ってきたけれど……他にもなにか手紙と一緒に贈りたいな。
 前世の私なら、人からなにかを贈ってもらいたかったから。
 王子様だからいろんな人に親切にしてもらっているかもしれない。
 でも、あの目。
 誰にも愛されなくて、諦め始めている……ううん、諦めた目。
 ガラスに映った昔の自分を思い出す。
 だから、なにかあげたいの。
 グレン王子を幸せにすれば、きっと前世の私が救われるから。
 グレン王子と昔の自分を一緒に幸せにしてあげられるなんて、すごくいいと思う!
 だから……えーと……どれがいいかなあ?
 
「サリィ、サリィ」
「はい、どうかされましたか?」
「グレンおーじにもおみやげかいたいの。どれがいい?」
「グレン王子に、クッキーですか? そうですね……お嬢様のお勧めを買って贈るのはどうでしょうか?」
「あ、そうか。そうだね! そうする! じゃあ、これ!」
 
 と、指差す。
 すごくシンプルなバタークッキー。
 これが、美味しいの!
 バターのふーみ? っていうやつ?
 あれが美味しくて、薄くてサクサクするの!
 
「これ、イリヤだいすき! グレンおーじにもすきになってほしー」
「ではこちらを買って、お送りしましょう。手配しておきますね」
「イリヤのてがみといっしょにしたい」
「では、明日焼き上げていただいて、お嬢様のお手紙と一緒にお送りするようにいたしましょうね」
「うん」
 
 ところで何枚くらい贈るのが普通なのだろう?
 あんまり食べすぎてもお茶をいっぱい飲まなきゃいけないよね。
 二十枚くらい? 多いかな?
 
「イリヤ嬢はグレン王子殿下と交流がおありなのですね」
「はいっ」
 
 騎士団長ににこにこ言われて頷く。
 婚約者なの、と言おうと思ったが、アルド兄様が渋い表情なのに気づいて口ごもった。
 なんか軽率に言ったらダメなんだっけ?
 
「そうですか。どうかグレン王子と仲良くしてあげてくださいね」
「え? はい」
 
 そりゃあ、婚約者なんだから幸せにするためにも仲良くするつもり!
 だけど、騎士団長さんの表情は笑顔なのに苦しそう。
 なんで?
 
「公爵令嬢であるイリヤ嬢の後ろ盾が得られるのでしたら、グレン王子の待遇も少しはよくなるかもしれませんからね」
「ん? どういう意味だ?」
「グレン王子殿下は城でのお立場があまりよいわけではないのだ。陛下も王妃様もグレン王子殿下を遠ざけているところがおありだ。(くだん)の『噂』を気にしておられるのだろうが」
「……『呪い』か」
 
 首を傾げる。
 のろい? のろいってあんまりよくない意味のやつじゃない?
 グレン王子は呪いがかかっているの? なんで?
 
「この国の王子は呪いがかけられているのか?」
「噂だよ。噂。……そりゃ……確かに魔物の闊歩する暗愚の森から、蟻兎(ありうさぎ)に襲われながら馬車で出てきた時は……さすがにちょっと……思ったけれど……」
「どういうことだ?」
 
 サリィが「いくら他にお客様がいないと言っても、そのようなお話は……」とアルド兄様を止める。
 シーニャンさんと私はそんなふうに止められたら気になっちゃうんだけれど。
 
「この国の王子様が呪われてるなんて噂、国外にも漏れ出しているぜ? 今更だろうさ」
「国外にも、漏れ出しているのか」
「おう。だが、そんな呪われた王子にも嬢ちゃんは果敢に寄り添おうってんだ。健気でおじさんは味方したくなっちまったわけよ」
「そう、なのか。ありがたい……」
 
 グレン王子、呪われている?
 騎士団長は苦々しくも、嬉しそうに口元を歪めてちょっと泣きそうに見えた。
 うーん、どういうことなの?
 
「そんな物騒な噂のある王子なのか。私がその呪いを、解いてやろうか? 本当に呪われているのならの話だが」
「朱雀領の大巫女姫様にそうおっしゃっていただけるのは、大変ありがたいですが……陛下も王妃様も呪いについては……否定的なのです。呪いなどない、と。しかし、それでも殿下が度重なる不幸に見舞われること自体は警戒していおいでです。それで距離を置いておられるのでしょう。成長なされば、そのようなこともなくなるだろうと。今だけであろうと」