「あ、あの」
「お? 完成したか?」
「は、はい。これは……すごいものができまして……!」
後ろのカウンターよりさらに奥の、厨房からさっきのシェフが出てきた。
お皿の上には、液状のチョコレート。
おお! チョコレートだ! 間違いなくチョコレートだ!
私よりも興奮が抑えられなさそうなシェフが「これはすごいんです!」と繰り返す。
シェフの興奮具合に、特にモーリスさんと騎士団長さんはわけがわからない、という表情。
きたばかりで、なんでシェフが喜んで出てきたのかもわからないから無理もない。
「これがチョコレート? イリヤ、どう?」
「チョコレート!」
「ではこれがそうなのか。液体になっているが」
「オイルの量を調整すれば最初にいただいた時のように固形にもできるはずです! このように液体にしても、時間をおけば固まるでしょう! なにがすごいって、これは固形にも液状にもできる! それだけではなく、液状にできるからこそクッキー生地に混ぜて使えたり、クッキーにかけることもできるのです! これは革命ですよ! こんな食材、小麦粉と同等で……」
「そうなのか? イリヤ」
「うん! イリヤ、おっきなチョコレートケーキたべてみたかったの」
自分の短い腕を丸くして、アルド兄様に主張してみる。
それは私の前世の叶わぬ夢。
時々気まぐれに与えられたクリームパン。
チョコレートクリームのパン、美味しかった
カスタードクリームパンも好き。
本当のお母さんとお父さんがまだいた頃の、誕生日の時のホールケーキはチョコレートクリームのやつ。
蝋燭を吹き消したの、嬉しくって嬉しくって、覚えてる。
それはもう、今は憧れになっていた。
あの時のチョコレートのケーキ、また、食べたいなぁって。
「ケーキ……ケークのこと?」
「たぶん?」
「女神様がお望みなのだろう。そこの菓子職人、イリヤは女神様の要望を受け取れるご加護がある。その、チョコレートケークなるものを作れるか? イリヤを通して女神様への捧げ物としたいのだ。金は私が払う。作って見てほしい」
「め、女神様への捧げ物でございますか……!? わ、わたくしめが!? そ、そのような栄誉なこと、本当にわたくしめに!?」
「この薬丸が必要なのであれば朱雀領から取り寄せよう。金銭的な支援は惜しまぬ。そなたとしてもそのチョコレートが完成すれば店で使える。女神様への捧げ物の報酬と思えば、どうだ?」
「ぜひ!」
土下座しそうな勢いで跪き、皿を私たちに向かって掲げるシェフさん。
シェフさんが跪いていいものなのかな?
「まずは試食させてもらえば?」
「それもそうだな」
「あ、こ、こちらのスプーンをお使いください!」
他の従業員さんが人数分の小さなスプーンを手渡してくる。
お皿の中のチョコをそれですくいあげ、試食。
「これ! これ、チョコ! おいしいの!」
「甘い……!?」
「うっわ……これ本当にあの薬丸!?」
「お? なんだなんだ? 俺たちも食っていいのか?」
「どどうぞ。想像の数十倍砂糖を入れましたが、砂糖の量を調整すれば元の苦味を残すこともできます。ええ! ですから本当にそんなこともできるという点において、とんでもない可能性を秘めたものなのです! このチョコレートというものは!」
「お、おお……」
シェフさんのあまりの熱意にシーニャンさんが引いている。
私は何年振りかのチョコを舌の上で堪能。
嬉しい……懐かしい……チョコだ……。
あ、そうだ。
「サリィ、このクッキー、かったやつ、チョコレート、かけてたべていい?」
「え? クッキーにチョコレートを、かけるのですか?」
「うん」
新しいスプーンを貸してもらい、購入したクッキーにチョコをかける。
それをそのままむしゃり!
ああ〜、おいしい〜!
チョコレートクッキー!
「天才でいらっしゃる……?」
「わかるか。そうなんだ。イリヤは天才なんだ」
「チョコレートクッキーもたべたい。チョコチップがいっぱい入ったクッキーもたべたい」
「チョ、チョコチップとは……?」
「なんか、ちいさいチョコのかたまり。つぶみたいなおおきさなの。それをクッキーにいっぱい入れて」
「はっ! なるほど! 小さな粒の形に固めたチョコレートを、クッキー生地に混ぜて焼くのですね!?」
「そう」
「天才でいらっしゃる!!」
なんかシェフの人が大声を上げて頭を抱える。
なんか急に大興奮し始めた。
そして当然メモ用紙を従業員に持って来させて「チョコレートチップクッキー! 生地にチョコレートを混ぜた生地で作ったチョコクッキー! 通常のクッキーにチョコをかける! チョコの中にドライフルーツを入れる!」となんかアイデアを書き出しているみたい。
あ、それなら――。
「はい、はい! イリヤ、かたいチョコの中に、ソースのチョコレートが入っているおかし、すき!」
「天才でいらっしゃる!!」
「チョコレートケーキ、たべたい!」
「もちろんそちらも開発させていただきます!」
「どうぶつさんのかたちのチョコ、たべたい!」
「はっはっはっはっ! これが女神様のご加護を受けた天才のご令嬢! 素晴らしすぎる! ありがとうございます!」
