「これは?」
「これもいいのではないでしょうか?」
「近場ならこの焼き菓子もいいと思うよ」
「長距離移動でしたらソフトクッキーがいいかもしれません。移動中破損してしまうかもしれませんから……」
「なるほど。なら、この辺りの詰め合わせがいいのか?」
私がドライフルーツを真ん中に埋めたクッキーを眺める横で、兄様たちはめちゃくちゃ真剣に朱雀領の人たちへのお土産を吟味している。
私もこのドライフルーツが真ん中に埋められたクッキーを差し出すと、シーニャンさんは「うん、それも綺麗でいいな! それも箱に入れよう」と言ってくれた。
でも、これは少しだけお酒が入っているから私は食べたらダメなんだって。
えー。クッキーの中にお酒入ってるんだー。
「ではこの辺りの、五十枚入りクッキーの箱を、五百個」
「ごひゃ……!? え!?」
「配達屋に頼んで朱雀領に届けてもらってくれ」
「へ、あ、は、はい! え!? ごひゃ……え?」
吟味の結果、シーニャンさんが選んだのはソフトクッキーを含むクッキー缶。
クッキーは割れやすいから、弾力性のある紙の箱が使われている。
だからあまり重ねると、下の方が潰れて壊れてしまう。
そもそも長距離移動を想定していないので、紙の箱なのだ。
雨に打たれて中身が腐ってしまうことも心配。
だから配送方法にも気を遣ってほしい、という追加の依頼。
しかし、発注を受けた店員さんがその数に目をぐるぐるさせている。
そうだよねぇ、いきなり五百箱はびっくりするよねぇ。
朱雀領にいる人たちみんなにお土産を持ち帰るっていうのもすごい話だけれど……。
「五十枚入り五百もあれば領の皆に行き渡るだろうか?」
「好まぬ者もいるかもしれませんが、それだけあれば行き届くことでしょう」
「うむ、それならよい」
「ああ、支払いはオルヴァーニュ公爵家で行う。請求書はうちに送ってくれ」
「なにを言う、アルド。私が私の領民に持っていく土産だぞ。私が出す」
「俺も朱雀領のみんなに、なにかしたいんだよ。それに、朱雀領の通貨を換金するのも手間だろう?」
「む……」
おお、なんか兄様がかっこいいこと言っている。
しかし、さすがに私は飽きてきた。
なにか他に面白いことないかなぁ。
というか、こんなに美味しそうなクッキーに囲まれてお腹が空かないわけがなく。
サリィに言って、何枚か買ってどこかで食べられないものだろうかときょろきょろしてしまう。
そこに、とても大柄な男性が二人、店内に入ってきた。
「お? なんだ、デートか?」
「わっ! びっくりした! ……え!? モーリスさん!?と――騎士団長!?」
「やあ、アルド。君は自宅待機のはずだが」
「ああ、俺の代わりに姫さんの護衛をしてくれたんだろう」
「そうだぞ。お前がいないからな!」
「へへ。悪ぃ悪ぃ」
全然悪く思っていなさそうなモーリスさん。
その横にいる、モーリスさんと同じぐらい大きな男の人は見るからに貴族。
髭のよく似合う、ダンディーな人。
私、知ってる。
ああいうおじさんを“いけおじ”っていうんだ。
これが“いけおじ”、かあ……。
「モーリスさんと騎士団長はお知り合いだったんですか?」
「モーリスの旧知の者か。騎士だと聞いていたが、騎士団長とやらだったのだな」
「ああ、若い頃一緒に魔獣退治を何度もして、それで今もたまに呑むんだ。今日は俺の土産探しにこの店を紹介されてな」
「流行りの店は長蛇の列だからな」
並ぶのが嫌だったんだね……。
「それよりもモーリス、こちらはお前の護衛対象なのか? 仕事をサボって俺に会いにきていたのなら言え。叩き帰してやっていたというのに」
「そんなことで姫さんは怒らねえよ。むしろ、俺なんか邪魔だろう? 若い二人でってやつよ。気を遣ったんだぜぇ?」
「なっ! シ、シーニャン殿と俺をくっつけようとするのはやめてくださいっていつも言っているじゃないですか!」
「まったくだな。そもそも私は朱雀様の所有物だ。結婚など考えておらん」
え、あ、そうなんだ。
兄様とシーニャンさん、いい雰囲気なのかと思ってた。
サリィの方を見上げると、口元に手を当ててなにか考えているみたい。
今朝、母様に言われたことを思い出しているんだろうな。
つまり、兄様とシーニャンさんって、別に、アレなのか。
特に、仲がアレな感じではないんだ。
「やはりどこぞのご令嬢なのか。自己紹介をしてもよろしいですか?」
「許す」
「ありがとうございます。私はエドレッド・ジザックス。カルヴァ王国騎士団第一騎士団団長を務めております。僭越ながら、姫様のお名前をお伺いしても?」
「よかろう。私はシーニャン。朱雀領の大巫女だ」
「なんと!?」
本気で驚いて、後ろへと下がる騎士団長さん。
そんなに驚く?
シーニャンさんってやっぱりすごい人なんだ?
「お、お前……! 朱雀様のご息女の護衛を任されておきながら俺のところに来ていたのか!? 馬鹿か!?」
「いや、だからそこは朱雀様のお気に入りの美青年とだな」
「そういう問題か! アルド殿一人でも少ない!」
「まあ、それはそうなんだが」
「騎士団長どの、そう目くじらを立てずともよい」
「おお、さすがシーニャン!」
「こ奴に払う護衛の料金は、その分引かせてもらうからなぁ」
「あぐ」
まあ、お仕事してないんだからそれはそうだよねぇ。
