転生したらHP10000だった。


 ここが貴族街の商店街。
 人がいっぱい歩いている。
 みんな着飾っていて、ちゃんとした服の人がいっぱい。
 
「で、なにかほしいものはあるの? 二人とも」
 
 立ち並ぶお店を眺めていると、アルド兄様が私とシーニャンさんに向かって首を傾げる。
 ほしいもの。
 ほしいもの?
 首を傾げる。
 私がほしいもの……?
 
「うーん。私は朱雀領のみなに持ち帰って喜ばれるものを買いたいな。というと食べ物か? 日持ちするものがいいな」
「じゃあクッキーかな。お菓子屋さんに行こう。イリヤも食べたいお菓子があったらお兄ちゃんが買ってあげるからね」
「うん!」
 
 お菓子屋さんかぁ!
 お菓子は好き!
 前世でお菓子は命綱だったけれど、今世ではおやつとして食べられる。
 そして前世の貴重な栄養源という意味とは違う、楽しむためのおやつはどれも本当に美味しい。
 色々あるお店の中で、兄様が行きつけだというお店に案内してもらう。
 黄色い屋根の、お菓子の家みたいな外装。
 ガラス張りでお客さんがまったくいないのがわかる。
 え? お客さんいない……。
 
「なんだ、向こうの行列のできている店ではないのか」
「向こうがいいなら行くといいんじゃないか? 俺はあの店のお菓子、そんなに好きじゃないんだよね」
「甘いお菓子が美味しいと噂のケークという店ですね。スポンジケークというものが売り出され、今とても話題のお店です。しかし、日持ちしませんのでこちらのお店の焼き菓子の方が、シーニャン様のご要望に合っているかと」
「ああ、そういうことか」
「まあ、それもあるけれど俺はあのケークって食べ物のクリームってやつが苦手なの」
「さようでございましたか。使用人に共有しておきますね」
 
 アルド兄様に手を引かれ、店内に入る。
 ケークってケーキのことかなぁ?
 通りの奥の別のお店は長蛇の列。
 あの店がケークのお店らしい。
 しかし、アルド兄様はケークが苦手。
 もしも本当にケークがケーキなら、私はちょっと食べてみたいんだけれど……。
 
「いらっしゃいませ、アルド様。いつもご贔屓にしていただきありがとうございます」
「こんにちは。今日は焼き菓子を見に来たんだ。彼女の故郷に持ち帰れる量を注文したいんだけれど、できるかな?」
「え!? は、はい! もちろんでございます! あ、ありがとうございます……ありがとうございます!」
 
 厨房からコックの服を着た男性と数人の使用人らしき人達が勢揃いで現れる。
 見た感じ、お客さんがケークのお店にみんな行っちゃって大変だったのかな?
 全員に何度も何度も頭を下げられた。
 
「イリヤはどんなお菓子がよいと思う? 私はこの国の菓子はよくわからぬ」
「イリヤ、このクッキーすき!」
 
 ガラス張りの棚の中に、見本のお菓子が詰まっている。
 これ、よくおやつの時間に出てくるクッキーだ!
 そっかぁ、ここのクッキーだったんだね。
 あれ? けど……。
 
「チョコないの?」
「チョコ? なんだ、それ。お菓子か?」
「えっとくろくて、かたくて、いっぱいあまくて、でもソースみたいにもなって……えっと、えっと」
 
 見渡す限りクッキーばかりのお店。
 クッキーの専門店なんだと思う。
 でも、それならばなんでチョコレートがないのだろう?
 一生懸命に説明して、前世の記憶も総動員して伝えようとするがみんな不思議そうな顔をしている。
 なんで? このお店にはチョコレート、ないのかな?
 
「カカオっていうおまめからできるってゆってた!」
「カカオ? それって……」
「あ! もしかしてこれのことか?」
 
 シーニャンさんが侍女さんから受け取ったのは黒い塊。
 私の知っているチョコと違うけど……。
 
「だが甘くはないぞ。朱雀領では一人一つ、必ず持ち歩いている非常食で魔獣避けの薬丸(やくがん)よ。カカオという豆の中身を取り出して粉にして、油で固めた物だ。食うてみるか? 本当に苦くてまずいぞ。魔獣も口の中に放れば泣きながら逃げてゆくほどだ。それでも、遭難した時には生き延びるための栄養になる」
「あ、ああ、それのことか。本当に不味いんだよね……」
「にてる」
「ほお」
「でも、イリヤのしってるチョコ、あまいよ」
 
 そう言うと、アルド兄様とシーニャンさんは顔を見合わせる。
 どうやら私の知っているチョコとはなにか違うみたい。
 なにが違うんだろう?
 チョコって甘いものだと思ってたけれど……。
 
「もしかしたら、その薬丸に砂糖を多く入れたものをおっしゃっているのかもしれませんね。そのような食べ方はなさるのですか?」
「いいや。聞いたことがないな。だが、面白そうだ。店主、この薬丸に砂糖と油を混ぜて作り直してみてくれないか? それまで土産の品を選ばせてもらう」
「よ、よろしいのですか? ぜ、ぜひ……!」
 
 シーニャンさんがシェフの服の人たちに薬丸を渡す。
 すぐに厨房に戻り、試行錯誤が開始された。
 
「あれだけで試作品など作れるものなのでしょうか?」
「さあなぁ。だが、イリヤが言うのだ。もしかしたら女神様方が捧げものとして所望しているのかもしれぬ」
「え? どういうことだい?」
「星の女神様は女神ブロントズウェール様が喜ぶものをこの世界にもたらすため、加護を与えた者へ知識を与えると言われている。ブロントズウェール様は、星の女神に愛されているからだ。アルドもイリヤが言う物はおそらく”作れる”ものと考え、与えてやるとよい。願いは叶えられずとも、女神様への捧げものをすればブロントズウェール様からのなにかしらの慈悲や恩恵はいただけるかもしれぬ」
「そういうものなのか」