「シーニャン殿はいつまで王都にいるつもりなんだ?」
食堂に移動し、昼食が運ばれてくるなりアルド兄様がしかめっ面でシーニャンさんにそんなことを言う。
ちょっと失礼っていうやつなのでは、と思ったがシーニャンさんはそれをあっさりと笑い飛ばす。
「知らん! 主のところの国王の予定次第だな!」
「そんな、いつ面会が叶うかわからないのに」
「その時は私からせっつけばよい。私のことを無視できる国王など、この大陸には存在しないのだからな!」
「まあ、それは……」
それは本当にそう。
母様は今日、父様が確認してくるって言ってたよね。
王様に会うだけで何日もやり取りしないといけないの面倒くさいねー。
「でも、時間がかかるかもしれないじゃないか。その間ずっと屋敷に引きこもっているつもりなのか?」
「なんだ? どこかに連れて行ってくれるのか?」
「べ、別に。正直言って俺も冒険者の依頼を受けに行きたいのに、どこにも出かけられないから……まあ、その……」
「私をダシにして表に出かけたい、ってことか?」
「ま、まあ……」
兄様、私を朱雀領まで連れて行ってから依頼で王都に帰ってきたはずなのに、その以来の護衛任務が突然なかったことにされてその代わりずっとお家で待機になってたんだって。
あまりにも理不尽。
しかも、ちゃんとお家で待ってないと王都の冒険者協会になにかするって言われたらしいよ。
すごく理不尽だよね。
「そんなことをするよりも、主のところの騎士団に頼んで訓練につき合ってもらえばいいではないか。モーリスは昨日から騎士団に入り浸っておるようだぞ」
「え!? み、見かけないと思ったら……。どうしてモーリスさんが騎士団に!?」
「私が知るわけがないだろう。旧知がいるから、それに会いに行っているのではないか?」
「それでも、今日も? 一応シーニャン殿の護衛でしょう? 一人だけ表を出歩けてずるい……」
「はっはっはっはっ!」
兄様が拗ねた。
「あ、それなりゃ……イリヤ、シーニャンおねーしゃまと、おかいものにいってみたい」
「買い物に? おお、面白そうだな。王都ならば朱雀領にないものがたくさんあるであろうし、アルドも出かけられる」
「さすがイリヤ! 天才だね!」
兄様、元気になった。
私はお家で勉強するの苦にならないけれど、兄様は表で元気に体を動かす方が好きなタイプだから自宅で待機していなきゃいけないのはつらいんだろうな。
私も、誰かとお買い物に行くのが楽しみ。
お買い物の最後の記憶。
前世の、まだ本当のお父さんとお母さんが揃っていた頃の、多分あれはスーパーだったと思う。
自分の服を自分で選んでみたい。
私はどんな服がすきなんだろう?
いつも母様が選んだ服を着ているから、よくわからない。
もしかしてセンスがめちゃくちゃダサかったらどうしよう……。
「いつ行く!? いつ行く!? このあと行く!?」
「少し落ち着け。イリヤはいつ行きたい? 体調が戻っているのなら、私もいつでも構わないぞ」
「ごはんのあと、いつでもだいじょうぶ!」
「そうか。では」このあと行ってみるか。私はどういう場所かよくわからぬ。アルドは私とイリヤをエスコートしてくれるのだろう? ん?」
「え。あ」
お外に行けることでウキウキしていたアルド兄様だが、シーニャンさんにそう言われて一気に肩を落としてフォークを皿の横に置く。
護衛なんだからエスコートはしなくてもいいんじゃないのか?
エスコートがなんなのか、私にはわからにけれど。
「い、いや。でも外に出られるなら!!」
「では、食後に少し休んでから買い物に行ってみよう。私はこの国の王都の買い物の仕方がわからぬから、任せてもよいか?」
「イリヤもわかんない。おしえてほしい」
「任せろ!」
シーニャンさんの時は「えー」と嫌そうな顔をしていたのに、私がお願いしたら輝く笑顔になった。
そんなこんなでお昼を食べたら私は一度本宅の自室に戻ってお着替え。
他所行きのドレスとはまた別の、少し軽装なワンピースドレス。
……思ったんだけれど、なんで貴族のお嬢様ってドレスばっかりなんだろう?
前世は『汚すから』というで何日も同じ服、ジーンズを着せられていた。
だから貴族が一日頻繁にお着替えする理由がまったくわからない。
サリィは「その時々に合った服を着るのです」と言ってたけれど……シーニャンさんとご飯を食べる時に着たワンピースドレスとお出かけ用のワンピースドレスの違いがわからないんだよね。
「お嬢様はなにを着てもお似合いですね」
「そうかなあ」
褒められて悪い気はしない。
前世は貶されてばかりだったし、お姫様のように着飾るのも楽しいもの。
でも、今だに褒められることは慣れない。
そんなことよりも、買い物が意外と楽しみ。
お着替えが終わったらボックス馬車に乗り込み、貴族街に出発。
ピクニックの時は素通りした貴族街の商店が並ぶ大通りに、ものの五分程度で辿り着く。
ち、近くない?
こんなに近かったの?
「なんだかたくさんの店があるな。これが王都の商店街というやつか」
「そう。流行り廃りは全部ここから。ほとんどの店が貴族御用達で、貴族の後ろ盾を得て商いをしている。俺、平民街の方に行きたかったんだけど……」
「いけませんよ、アルド様」
「ぐっ……。だ、だよねぇ」
アルド兄様、サリィに怒られてる。
