朝食のあと、涙でびちょびちょのワンピースドレスを着替える。
泣き疲れてしまったので、お昼まで仮眠という名のお昼寝。
起きてからまた別の余所行きのワンピースドレスに着替えて離れへ。
シーニャンさんから「体調が整っていたら昼食を一緒に食べないか」とお誘いいただいたんだって。
なんか今日の私、寝てるか泣いているかご飯食べているだけだなぁ。
と、思うが子どもなんだから仕方ない。
精神疲労は体力とは別で、なんかすっごく眠くなるんだもの。
離れに行く前に母様に呼び止められて、色々聞かされる。
私の加護についてはシーニャンさんに聞いており、それを国王陛下にも手紙で報告した。
詳しい報告をするように、昨日の晩に返答が来ている。
「陛下への報告は今日、お父様が日時を決めてくるでしょう。ああ、でも本当によかったわ。あなたの加護は願いを叶えられないのね。シーニャン様がわざわざ一緒にいらした時は、どうしたらいいのかしらと思ったけれど」
「へーかへのほーこく、シーニャンおねいいしょいくって」
「そうね。シーニャン様からもそうお聞きしているわ。本当にありがたいわね。あなたのことがあるから、シーニャン様からアルドへの求婚があったら母様はお断りできそうにないわねぇ」
「んにゅ?」
「ほほほ。なんでもないわ」
なんか最後に小さな声でなにか言ってたけれど、よく聞こえなかった。
笑ってごまかされたような気がするけれど、すぐしゃがんで目線を合わせる母様には真面目な顔で「シーニャン様に失礼のないようにね」と言われる。
公爵夫人の母様にこうも言わせるということは、やっぱりシーニャンさんって偉い人なんだなぁ。
「それと、それとなくアルドとはどういう感じなのかを聞いてきてくれる? サリィ」
「もちろんでございます」
「んにゃ……?」
母様の思惑は私にはよくわからないが、そのままサリィと昼食を取るために離れへ向かう。
離れ、私実は初めて来る。
本宅の横に建てられた本宅よりも少しだけ小さいお屋敷を離れと呼ぶらしい。
我が家の離れは三軒あり、一つは来客用。
もう一つは長兄ブロッサ兄様のお屋敷、最後の三つ目は次兄ルイシス兄様のお屋敷として使われている。
本当はアルド兄様にも屋敷を建設する予定だったらしいけれど、アルド兄様は冒険者としてあんまり家に帰ってこないからいらないって言ったんだって。
兄様たちに屋敷が与えられたのは、貴族として問題なく奥さんを迎えて家を維持し、仕事をこなすため。
いずれ本宅は嫡男のブロッサ兄様に明け渡され、入れ替わり父様と母様が自宅として使う予定なんだって。
私はお嫁さんに行くので、離れは実家に帰る予定がある時にしか使わないだろう、だって。
お嫁さんに……グレンのいるお城に。
「おひるごはんのあと、グレンおーじにおてがみかいていい?」
「そうでございますね。シーニャン様になにかお誘いがなければよろしいのではないでしょうか。ですが、せっかく王都にいらっしゃってくださったのですから、貴族街の商店街でお買い物をされるのもよろしいのではないでしょうか。お嬢様はまだ商店街に行ったことがないので、アルド様に案内していただくのもよろしいかと」
「おかいもの……」
確かに。
お手紙は夜でも書けるけれど、お買い物はシーニャンさんがいる間しか一緒に行けないもんね。
「お誘いいただいたら、ぜひに、とお答えいたしましょう」
「うん! おかいものも、いってみたい」
お買い物。
買い物、かぁ。
買い物の知識はお金と欲しいものを交換する、っていうことしかわからない。
考えていたらだんだん不安になってくる。
「サ、サリィ」
「はい。どうかなさいましたか?」
「おかいもののこと、イリヤよくわからない。まちがってたらはずかしいから、やりかたとか、おしえてね」
「ングッ。…………もちろんでございます」
なんで今目許を押さえて天井を見上げたんだろう?
「さあ、お嬢様」
「あ。うん」
気がつくと扉が目の前にあった。
離れの玄関! いつの間にかたどり着いていたみたい。
サリィが開けてくれて、いざ、初めての離れへ!
「イリヤお嬢様、ようこそいらっしゃいませ」
「シーニャンおねーしゃま、いますか?」
「はい。リビングでお待ちですよ」
公爵家私兵の護衛騎士が玄関に二人。
声をかけると、片方の騎士がリビングへと案内してくれる。
他にも我が家のメイドが数人、シーニャンさんのお世話を任されているようだ。
「おじゃましますー」
「おお! やっと来たか、イリヤ!」
「イリヤ、もう体調は大丈夫なのか?」
「はぁい。ごしんぱいを、おかけしました」
リビングに入ると、黒張り革のソファーにアルド兄様とシーニャンさんが座ってお茶を飲んでいた。
なんか、心なしかアルド兄様、お疲れ……?
「構わぬよ。長旅は疲れたであろう。かく言う私も初めての旅で昨日は起きなかった! あははは!」
「おそろい!」
「んふふふっ! そうだな、お揃いだ」
