「それは、さすがに……。イリヤにはグレン王子が陛下や王妃様に、大切にされていないように見えたのか?」
「うん」
「もしかして、それで婚約の話を受け入れたの?」
「うん。グレンおーじはしあわせにしてあげなきゃっておもったの。イリヤのおうちみたいに、かぞくはいいものなんだよ、って、イリヤがかぞくになってあげるの!」
「……っ」
兄様とサリィが息を飲む。
私変なこと言ってないよね?
「そうか。お前がそこまで考えてグレン王子と婚約するといったのなら……グレン王子が十五歳になったら俺と戦ってもらおう」
なんで?
「やはりお嬢様と結婚するのでしたらアルド様と同等の強さがありませんと、お嬢様とは釣り合いませんものね」
「ああ。もちろん勉学でも兄様たちよりも優秀でなければ。そうでなければイリヤには相応しくない」
「ええ……」
兄様たちよりも強く、優秀な人って無理じゃない?
私は詳しくないけれど、アルド兄様のアーツ魔法はとても珍しいはずだし、長男のブロッサ兄様は貴族学園始まって以来の高成績で六年間首席から一度も落ちずに卒業。
次男ルイシス兄様はあらゆる芸術に秀でていて、男性なのに『歌姫』と呼ばれたりがっきならなんでも扱えたり、絵画、観劇などにも造詣が深く色々なイベントにお呼ばれしているとかそうでないとか。
まあ、兄様ヨイショでそれなりに盛っているとは思うけれども。
それでもアルド兄様は本当にとても強いし、多分ブロッサ兄様もルイシス兄様もアルド兄様とそう変わらないくらいには噂になるような優秀さなのだろう。
そう考えると、グレン王子が我が家の兄様たちに認められるのはきっと大変だろうなあ。
◇◆◇◆◇
アルド兄様とサリィ、私で王都を出て五日ほど経つ。
馬での移動は疲れるし、ご飯もあまり美味しくはない。
アルド兄様とサリィは、特にご飯のことで私がホームシックに陥るのではないかと心配していたらしい。
でも私はご飯がもらえることはとてもありがたいことだと知っている。
魔獣が出ても兄様が倒してくれるし、野宿もサバイバル知識を教えてもらえて毎日楽しい。
「なんというか、イリヤは結構すぶと……いや、冒険者向きなんだな」
「そうでございますね。お嬢様がここまで平然としているとは思いませんでした」
「たのしーよー」
「それはようございました」
「冒険者協会で冒険者証を作ってもいいかもしれないな」
「お嬢様でも冒険者証を作れるのですか?」
「いや。さすがに十歳からだ」
「ですよね」
冒険者協会。冒険者証。
そうだ、それももっと詳しく聞いてみようと思ってたんだ。
「はい! ぼーけんしゃ、イリヤ、しりたい!」
「冒険者について知りたいってこと?」
「はい!」
「いいよ。なにが知りたいの?」
馬に乗りながらこういう話を色々聞けるから、やっぱり旅って楽しい。
冒険者については現役冒険者のアルド兄様に聞くのが一番。
「ぼーけんしゃあんまりわかんない」
「そう。じゃあ基本的なことからね。まず、冒険者は誰でもなれる職業。俺みたいな貴族がなることは、まあ、少ないんだけれど」
「冒険者協会というところで登録して、冒険者証というものを発行してもらうのですよ。その冒険者証は身分証になり、アルド様が首から下げているタグがその身分証です」
「キレー! あお!」
「そう。冒険者証は階級で色分けされているんだ。階級は実力と依頼書をこなした数で決まる。下から赤、黄色、緑、青、白、銀、金、黒、となっているんだ」
「え!? にいしゃま、したからよんばんめ!?」
「依頼をこなしている数が少ないからね」
それに一番びっくりだよ!?
アルド兄様の場合、実力は銀級らしい。
でも、カルヴァ王国の貴族であるためと若く、依頼をこなした数が少ないためまだ青級。
それでも兄様の年齢を考えると、破格の階級なんだって。
「でもなんできぞくだとだめなの?」
「冒険者って難民救済のために設けられたものなんだ。国が魔獣に滅ぼされてしまい、行く当てがなくなった某国の国民に一時的な身分証として発行されたのが始まり。魔獣への復讐と、他の国への移住のために『自分はこんなに実力がありますよ』と売り込むための実力証明。魔獣が活発だった時代、多くの国に守護神はいなくて余裕がなかった。国のためになる人材以外はおいそれと国民として迎えることができなかったんだって。だから安住の地を求める人々は、冒険者となって移住したい国の役に立つことを証明した。だからまあ……俺のように、身分のある人間がすることではないんだよ」
「おふう……」
なるほどなぁ。
でも、戦う力のない人は冒険者になっても魔獣と戦えなかったんじゃない?
「たたかえないひとは?」
「戦闘が苦手でも、薬草摘みや魔獣解体の技術、魔石浄化などの能力も求められていたんだよ。まあ、ぶっちゃけるとそういうのは下っ端の危険で汚い仕事、なんだけれど……。いないと困る仕事でもある。だから依頼書をこなした数も評価に反映される仕組みなんだ」
「ほあ」
意外に考えられている仕組みだった。
そうか。戦えない人でも階級が上げられるのか。
そうして一定以上の階級になれば、その国に住む資格が得られるのね。
でも、アルド兄様はとっくに貴族として帰る場所も地位もある。
貴族が冒険者になる必要はそもそもないのだ。
