「アルド、サリィ、イリヤを頼みましたよ」
「はっ。必ずやお嬢様を守り通します」
「うん、任せて。それじゃあ、行こう。イリヤ」
「うん」
マントを被せられ、荷物を持ったサリィが私を抱え上げて馬に乗せる。
アルド兄様は兄様の馬に乗って、屋敷から旅立った。
やはり馬車とは違い、めっちゃ速い。
あっという間に校外に出て、兄様が加護を賜ったという南の霊峰『朱雀峰』へ向かう。
王都から離れれば離れるほど、サリィには笑顔が増えた。
……いったい王家はどんな力を持っているの?
「アルド様、朱雀峰まであとどのくらいなのでしょうか?」
「馬で駆けても三日はかかるよ。今日はハガツ村の宿で一泊しよう。最短距離で行ってもいいけれど、母様の様子を見ると遠回りした方がいいんだよね……?」
「ええ。その方がよろしいかと。王家の影が必ず追ってくるでしょう。お嬢様はグレン殿下の婚約者を了承なさいました。きっと監視がつくはずです」
そっかあ、結構遠いんだな。
でも遠回り? 監視?
馬に乗ったまま、会話する兄様とサリィ。
さっきまでニコニコしていたサリィから表情が消えて、兄様も神妙な面持ちになる。
「な、なあ……サリィ。母様はなにか……王家に怯えているというか……警戒しているように見えた。なにか、知っているか……?」
「か、各国の王家には、国を守る神の加護がございます。大国である我が国の守護神の力は特に強力で、貴族を操る力があるとか。そ、それこそ……反逆を企てた貴族を、じ、自害するよう、命じたとかも……」
「ッ……!!」
サリィの顔色が蒼くなっている気がする。
王族は国を守る守護神。
また、加護。
でも、それって加護なの?
人を不幸にするのって加護って言えるのかな?
「ねえねえ、かみさまって、めがみさまだけじゃないの?」
「え? ええ、そうですよ。女神様は幼いので、たくさんの神々に支えられているのです。国を守る守護神様は各国におり、魔獣が王都に侵入してくるのを防いでくださっているのですよ」
「じゃあ、だいじなんだ」
「ええ。国を守ってくださる神様ですもの。大事であり、強い神様なのです。我々も国の守護神様には日々感謝しなければいけませんね」
「でもこわいの?」
「……はい。国を守る守護神様は王家と契約しているので……」
つまり力の使い方次第ってことね。
王家は――王家というか国王陛下と、王妃様も多分――人を恐怖と力で縛りつけて支配するタイプの政治をやっているんだ。
国の守護神様は王家と契約して、国を守るために力を振るう神様。
けれど、兄様はアーツ魔法を使って倒れてしまうほどの負担を背負っていた。
もしかして、王家もかなり強い、なにか“縛り”というか対価を支払っているのではないだろうか?
私の場合は転生前。
体力が多すぎて不眠気味。
そんな“対価”が、大きな力にはセットになっている。
でも、今の時点でそれはわからない。
私は簡単には死なないHPだけれど、母様や父様や兄様たち、使用人のみんなは普通のHP。
それに、貴族を操る力。
めちゃくちゃ好き放題できるってことじゃない?
そうか、家族同士で殺し合わせる。
そんなことも、できてしまうのか。
母様や父様が本当に恐れていたのは、それなんじゃない?
もし実行したら最低すぎるけれど……。
「にいしゃま、すざくさまはカルヴァおーこくじゃないところにいるの? どこからどこまでがカルヴァおーこくなの?」
「国から出るのは三日くらいかかるな。乗っている馬たちは軍馬として育てられている馬だから、足がとても速く体力と持久力のある子たちだ。普通に進めばもっと早いかもしれない。だが――」
「見つかったらないないなんだよね?」
「そうだ。だから冒険者がよく使うルートで行こう。危ないかもしれないが発見されづらい」
なにに、と言われれば王家の影っていうやつに。
うーん、操られてしまうかもしれないって言われても、監視なら勝手にさせればいいんじゃないかなぁ? って、思うけれど……。
だって、動きがわからない方が王様たちも不安になるんじゃない?
それで母様や父様や兄様や使用人たちになにかされる方が私は怖い。
「かあしゃまたち、しんぱいだからさいそくで行ってかえってきたほうがよくない?」
「それは……」
「今奥様や旦那様……いえ、オルヴァーニュ公爵家を失うわけにはいきません。王家の立場的にも、明確な反逆の計画がなければ処分ができないでしょう。オルヴァーニュ公爵家は産業の要ですからね」
「ただイリヤが己の加護についてを調べるために国外に出るくらいのことで、公爵家に手は出せない、ということだな?」
「はい。アルド様とお嬢様が国外に定住するとなると、話は変わってまいりますが……」
さすがにそれはない。
興味がないわけではないけれど、そんなことしたら父様や母様、兄様や……グレンにも……なにが起こるかわからないじゃないか。
王様や王妃様は実の子どもであるグレンにすらあんな目を向けるんだ。
「グレンおうじ、ホントにおーさまとおーひさまのこどもなのかな……」
「「え?」」
前世の母の再婚相手と同じ目だった。
前世の母も、再婚相手が私を殴る時同じ目になっていたから。
あの目は感染する。
だから、どっちが、とは言わないけれど。
それに、さすがに王族が前世の両親みたいに離婚して引き取ってー、とかはないと思う。
だから私の言葉は、本当に杞憂というか。
