転生したらHP10000だった。

 宮司さんに言われるがまま、羅針盤というやつに手を乗せる。
 これでなにがわかるんだろう?
 間もなく羅針盤がくるくる動く。
 なんだか地球儀みたいだ。
 
「これは……」
「これでなにがわかるの?」
「お嬢様に加護をお与えくださった星の精霊を指し示しております。これは、『心の精霊ローゼクリス』様ですね」
「心の精霊?」
「はい。詳しいことはわかっておりませんが、顕現していない星の精霊は『季節の精霊、廉宮(れんきゅう)』『学問の精霊、永球(えいきゅう)』『武の精霊、護丘(ごきゅう)』『心の精霊、ローゼクリス』。八つの星の精霊の中でも我らが女神ブロントズウェール様よりも神格が高く、強力な神こそ『心の精霊、ローゼクリス』。お嬢様が加護を与えられたのはこちらの心の精霊、ローゼクリス様になります」
 
 ローゼクリス様。
 ローゼクリス様!
 私を膝枕してくれた女神様だ!
 実在したんだ……!
 
「そ、その『心の精霊』というのは、どのような力を持つ精霊なの?」
「先ほども申し上げました通り、顕現していない星の精霊はわかっていないことが多いのです。心の精霊ローゼクリス様についてわかっていることは四つ。一つ、心の力で加護を与えた者の願いを叶える。二つ、我らが女神ブロントズウェール様よりも高い神格を持つこと。三つ、女神ブロントズウェール様を含めたすべての精霊よりも神格が高い可能性があること。四つ、ローゼクリス様の加護を持つ者が叶えられる願いの数に上限はなく、ただしなにか条件があると思われ、その条件については一切わかっていない。――我らが伝え聞いているのはこれくらいです」
「願いを……叶える……!!」
 
 なるほど、それで私のHPは10000なのか。
 もう記憶はあいまいだけれど、私がローゼクリス様様にお会いした時願ったのは『痛かったり苦しかったりはしないこと』だ。
 女神様はその願いを叶えるためにHPを10000くらいにしましょうか、と言っていた気がする。
 つまり、私は産まれる前から願いを一つ叶えてもらっていた。
 もしも今宮司様が言っている”条件”が”生まれ変わる前”だとしたら、これ以上の願いはかなわないんじゃないかなぁ?
 HP10000で、私はもう十分助けてもらっている。
 ううん、助けてもらった。
 私はもう十分だと思うのだけれど、母様の顔色は真っ青。
 
「か、かあしゃま……?」
「お、奥様。大丈夫ですか? お顔の色が真っ青ですぞ」
「え、ええ……。ど、どうしたものかと、お、思って……。ね、願いを叶える、なんて……王家に報告したら……この子は……イリヤは……っ………………どうなってしまうの……!?」
「ッ……」
 
 ぼろ、と耐え切れなくなった母様の目から大粒の涙。
 それを見て、愕然となってしまった。
 それと同時にものすごい恐怖も襲ってくる。
 母様がここまで恐れる王家。
 ただ一緒に暮らせなくなるだけでは、ないの?
 母様の様子に宮司様も神妙な面持ちになり、母様はしゃがんで私のことを抱き締める。
 なんなの? 怖い。
 私はどうなってしまうの?
 王家はそんなにも恐ろしいの?
 母様は、いったいなにを恐れているの?
 
「奥様、隠していても王家は必ず暴き出すでしょう」
「え、ええ、ええ。わ、わかっています。でも……」
「お嬢様をお守りするためにも、無碍に扱わぬようにわたくしどもも証言いたします。どうかそのように絶望なさいませんよう。お嬢様のようにローゼクリス様のご加護を賜った方は歴史的に見てお二人目。わからぬことの方がまだ多いのです。聞けばオルヴァーニュ家には同じく星の精霊であった朱雀様より加護を賜った冒険者、アルド様がいらっしゃるとのこと。星の精霊のことは、同じ星の精霊である朱雀様にお聞きしてはいかがでしょうか? 我らのような者よりも、加護をお与えになるほどに認められておられるアルド様にならば朱雀様も我らが知らぬようなことをお話しくださるかもしれません」
「……!! ……そうね……アルドに相談してみます。ありがとう」
 
 母は私をもう一度ぎゅうと抱き締めて、涙を拭うと宮司さんに笑顔でお礼を言う。
 そしてそのまま私を抱き上げると、急ぎ足で表に止めてある馬車へと乗り込んだ。
 さすがにここまで母様が取り乱したところを見たら、聞きたくなってしまう。
 
「か、かあしゃま。おうけ、こわいの?」
「王家は……そうね。恐ろしいわ。でも、そのくらい強い力を持たねば他国からの侵略にくじけてしまう。その力が他国へ向かずこちらに向いたら恐ろしいでしょう?」
「う、うん」
「今はまだわからないかもしれないけれど、これだけは覚えておいてね。でも、宮司様からよい提案をいただけたわ。すぐにアルドとともに、朱雀様に会いに行くのです」
「すざくしゃまに……イリヤが?」
「そうよ。国外ならば……陛下たちも簡単にイリヤに手が出せなくなるもの」
 
 母の真顔に、国内にいることすら危険なのかと背筋がまた冷える。
 いったいこの国の王族ってなんなの?
 ――知らなきゃ。
 わからないことは、勉強!
 有り余る体力があるのだから、強く賢くなってまた家族で暮らそう……!