転生したらHP10000だった。


 家に帰ってきて、すぐに部屋に寝かされて、お医者様ともう一人……。

「この方は鑑定士よ。あなたの加護を見てくださるわ。もしかしたら女神様の加護ではないかもしれないから、ね」

 母様はベッドに寝かされたままの私の頭を撫でながら、震える声で言った。
 女神の加護があると、私、今の家族か引き離されちゃうの?
 やっと前世を振り返らない、乗り越えようって思えたのに……!?
 絶対嫌だ、絶対嫌だ……!

「イリヤ、かあさまといっしょいる……! とうさまと、にいしゃまたちと……このおうちでいっしょいる……!」
「ええ、ええ! そうよね、そうですとも……!」

 お医者様の診察のあと、鑑定士が私の体の上で手のひらを翳す。
 部屋にはアルド兄様だけでなくブロッサ兄様とルイシス兄様もやってきて見守っている。
 本当に重大なことなんだ……。
 どうしよう、私、女神様と話をした。
 加護をもらえるっていう話もしていた……!
 嫌だ、嫌だ……! この家族と離れたくない!
 家族と幸せだったのに、離れたら終わっちゃう!
 前の人生みたいに――!!

「これは……!」
「か、加護はあったのですか!?」
「ありましたが、これは女神様の加護ではありません。星の精霊ロクサーナのご加護で、ヘルスが10000あります! 不死ではありません!」
「へ」
「へ?」
「ヘルスが……」
「い、ぃぃぃぃいいいいい10000!?」

 大声を出したのはアルド兄様。
 なに? へる、なに?

「なにそれ?」
「へ、ヘルスが10000!? なにかの間違いではないのですか!?」
「いえ。……ご覧になりますか?」
「「「「ぜひ!」」」」

 この部屋にいる家族全員の声がかぶる。
 そんなにおかしなことなの?
 鑑定士が出した薄いウインドウのようなものを、家族全員で覗き込む。
 あれ、なに? あれも魔法?

「ほ、本当に10000ある……!? そんなことあるのか!?」
「お、おかしいの?」
「いや、えっと……っ! ……っ……っ……お、おかしい、か、な?」

 アルド兄様、たっぷり溜め込んでから、包み隠さず話してくれた。
 この世界の人間の平均ヘルスポイント――いわゆる“体力”は、手だれの冒険者で100前後。
 母様たちのような戦わない女性なら平均40。
 戦わない男性でも50。
 それを聞くとなるほど、10000は異常だ。
 たとえば先程、私に突き立てられたナイフによるダメージが40だとすれば、ほぼ即死。
 私のような幼児のヘルスポイントは成長途中だから10あるかないか。
 そりゃあ即死したと思われても不思議ではない。
 でも私のヘルスポイントは10000。
 40削ても、痛いだけでへっちゃら、というわけ。
 でも普通に痛いし、手当しなければ『状態異常:出血』によりヘルスポイントが減り続けて死ぬこともある。
 ……のだけれど、私の場合ヘルスポイントが高すぎて状態異常:出血になっても生き延びていたと思われるそうな。

「星の精霊というのも聞いたことがないわ。それはなんなのですか?」
「星の精霊は女神様を助ける精霊のことです。御伽話にあるように、この世界を創造なされた女神ブロントズウェール様には八つの星の精霊が力を与えています。女神様の絵画を見たことがあればわかると思いますが、女神様の周りにある八つの光。あれが星の精霊です」
「あれが……。その星の精霊が、イリヤに加護を与えているのですか?」
「はい。どの星の精霊なのかは……神社で調べていただく方がよいでしょう。私の知識では星の精霊の種類まではわかりかねます。申し訳ない」
「星の精霊にも種類があるのですね」
「はい」

 母様が頰に手を当てて、また渋い顔で考え込む。
 兄様たちも顔を見合わせ、神妙な面持ち。

「イリヤ、おうちにいられる? めがみさまのごかごじゃないから、いられるよね?」
「そ、そうね。女神様のご加護ではないから……。でも、星の精霊のご加護だなんて、聞いたことがないわ」
「女神様のご加護は数十年に一人は現れますが、星の精霊は八体いてもなかなか加護を与えることはありません。うち四体は“四神”として現世に顕現し、時折実力を認めた者へ加護を与えると言いますが」
「四神!? 朱雀や、青龍、白虎、玄武のこと?」
「はい。さすがにその四体は有名ですね。ですが残りの四体は顕現しておらず、女神様のお側に控えているといいます。女神神社でもっと詳しく教えていただけると思いますよ」

 兄様たちがまた顔を見合わせる。
 四神……四体の守護獣。
 兄様が加護をいただいたのはその四体の守護獣の一体、朱雀。
 つまり、兄様に加護を与えた朱雀と同格のモノが、私に加護を与えてくれているってこと?

「精霊というか……それはもう……女神様と同じ“神”の一種なのでは……」
「はい」

 鑑定士さん、あっさりと肯定。
 う、うおお、ま、まじか〜!?

「ですから、一度女神神社で詳しい鑑定をお勧めします。顕現していない星の精霊はわかっていないことの方がはるかに多く、また顕現している四神よりも強力。女神様のお力の一端ではなく、女神様に力を与える存在として女神様以上に強い力を持つと言われていると神社の人に聞いたことがあるのです」
「そ、そんな……!」
「それって、女神様の加護を持っているよりも厄介なんじゃ……」
「王家の出方がわかりづらくなったな」