高校生活、二日目。
5月の風が、開け放たれた窓からさわやかに吹き込む。
オレは席で教科書を整える。一緒に登校した広川は友達に呼ばれてどこかにいった。
机に腰掛けてグループで笑っている男女。
教室の掲示物を剥がしているクラス委員。
秘密のこそこそ話をしている女子。
前の席は、クラス1可愛い水無瀬さん。
きらきらだ!
こういうのが高校生活なんだ。
ドンッ
「ぐッッッ」
オレは思わず呻いた。
担任にもらった年間行事予定を見ていたら、後ろから突然広川が乗っかってきた。
オレの頭を肘置きにしている。
小学生の頃、家で飼ってたゴールデンレトリバーの花ちゃんに後ろから飛びかかられてぶっ倒れたけど、まさにアレだ。
重ッ!!
オレが必死で両腕で体を持ち上げようとしているのに、上からグイグイくる。
しかも、楽しそうな話し声。
「水無瀬ちゃん、英語の予習やってきた?」
くぅー、ちゃん付け馴れ馴れしい。どうでもいいわ! はよどけや!
「え、今日英語の授業あったっけ?」
「あるんだな。3時間目の生物、英語になったんだよ。オレ予習してきたんだけど、ノートみる?」
はあ?!
広川ふざけんな。水無瀬さんだって、下心しかない奴からノート借りるわけないだろーが。
オレが頭を持ち上げようとするのを、大きな手で上から押さえつける。身動き取れない。最悪だ。
「ほんと? 嬉しい。でも、だったらデートして、とか言わないでよ?」
えっ。
オレは水無瀬さんの反応に一瞬静止。
だって、水無瀬さんの声がセリフに反して弾んでるのがわかったから。ちっくしょー。
人の頭の上でいちゃつくな!!
うふふ、あはは、と笑い合って二人の会話が終わった。水無瀬さんが席を離れて、ようやく開放されたオレ。
「おまっ」
抗議しようとしたら、隣に座った広川がこちらを見て目を丸くした。
「レン、すげー髪ボサボサ。どしたの?」
「お前だよ!」
広川はあはは、と笑って両手をあわせている。
「ごめんごめん。水無瀬ちゃんとオレのあいだを邪魔しかねん奴は潰しとこうと思って」
「物理かよ!」
なんの裏も表もない明るい笑顔に力が抜ける。
と思ったら、ふと、何かに気づいたように笑うのをやめた。
手を伸ばしてくる。手はオレの顔の横を通り過ぎ……。
耳の後ろの髪に触れて、指でつまんだ。
えっ、えっ?
女子だったらドキンってするやつ?
男子だからしないけど。
ま、まあ、黙ってりゃイケメンだよな。
でも、なに?
オレが動けずにいると、広川は至近距離から目を合わせ、柔らかく優しく笑った。
「レンって、すげー猫っ毛。将来薄毛になっても、レンはレンだよ」
はっ?
な……な……
「不吉なこと言うな。おおきなお世話だっつーの!」
真後ろの席からぷっと女子が吹きだす声が聞こえてくる。笑われた。いじられ枠は狙ってないのに!
教室のドアから教師が入ってきて、オレも広川も慌てて前を向く。
どーせニヤついてんだろうが!
ちら、と見た横顔は意外にも笑っていなかった。すっとした鼻筋が際立つ。
水無瀬さんが甘くなるのも、無理はない。
っていうか、いつから『レン』呼びになったんだ?!
※ ※ ※
学校帰り、スーパーに寄った。
帰国して1週間、マンションに入っているコンビニで全てを済ませていたが、ついにデビューだ。
広川に言われたからじゃない。チキン南蛮弁当も飽きたから。
オレはかごを持ってスーパーの中をぐるぐる回る。
なにを作ろう? あ、中学のときに家庭科で作った、ワンパン料理のパスタがいいかもしれない。
フライパンに、パスタと一緒にトマトケチャップやウィンナー、コンソメをぶち込んで煮るだけだ。でもウマかった。
レジに並んでいるとき、ふと、レジ前の棚に並んでいる歯ブラシが目に入る。
歯ブラシか。
また、友達が泊まりにくることあるかな?
歯ブラシがあった方が印象いいかな。
女の子が来てくれて「あ、歯ブラシ忘れた!」「予備あるよ」なんてな!
オレはいそいそと歯ブラシをカゴにいれる。
帰宅してキッチンに立ちパスタを作る。
バラエティ番組を見ながら、初の自炊料理に「うまい!」と舌つづみを打つ。
味付けがちょうどよかった。コンソメ2個にして正解ーーなんて、語る相手もいないから、口にもださないけれど。
ま、一人暮らしなんてこんなもんか。
窓の外を見ると、いつの間にかまっくらになっていた。カーテンを閉める。
フライパンと食器は食洗機にいれた。操作方法は広川が教えてくれたからマスターしている。
ブシャーと水音がして、運転が始まる。
シャワーを浴びて部屋に戻ったら、テレビがつけっぱなしだった。
深夜テンションのバラエティ番組を消すと、部屋は急に静かになる。
ソファベッドに仰向けに寝転がり、上を見る。
白い天井、三つ並んだ小さなダウンライト。
…………。
歯磨きしようと洗面所に行って、
おい!!
思わずツッコミをいれた。
洗面所の歯ブラシ立てに、歯ブラシが二本立っていた。
グリーンのはオレ。
ブルーのは、…………。
ここはお前んちじゃねええええ!!
図々しいにもほどがある!
5月の風が、開け放たれた窓からさわやかに吹き込む。
オレは席で教科書を整える。一緒に登校した広川は友達に呼ばれてどこかにいった。
机に腰掛けてグループで笑っている男女。
教室の掲示物を剥がしているクラス委員。
秘密のこそこそ話をしている女子。
前の席は、クラス1可愛い水無瀬さん。
きらきらだ!
こういうのが高校生活なんだ。
ドンッ
「ぐッッッ」
オレは思わず呻いた。
担任にもらった年間行事予定を見ていたら、後ろから突然広川が乗っかってきた。
オレの頭を肘置きにしている。
小学生の頃、家で飼ってたゴールデンレトリバーの花ちゃんに後ろから飛びかかられてぶっ倒れたけど、まさにアレだ。
重ッ!!
オレが必死で両腕で体を持ち上げようとしているのに、上からグイグイくる。
しかも、楽しそうな話し声。
「水無瀬ちゃん、英語の予習やってきた?」
くぅー、ちゃん付け馴れ馴れしい。どうでもいいわ! はよどけや!
「え、今日英語の授業あったっけ?」
「あるんだな。3時間目の生物、英語になったんだよ。オレ予習してきたんだけど、ノートみる?」
はあ?!
広川ふざけんな。水無瀬さんだって、下心しかない奴からノート借りるわけないだろーが。
オレが頭を持ち上げようとするのを、大きな手で上から押さえつける。身動き取れない。最悪だ。
「ほんと? 嬉しい。でも、だったらデートして、とか言わないでよ?」
えっ。
オレは水無瀬さんの反応に一瞬静止。
だって、水無瀬さんの声がセリフに反して弾んでるのがわかったから。ちっくしょー。
人の頭の上でいちゃつくな!!
うふふ、あはは、と笑い合って二人の会話が終わった。水無瀬さんが席を離れて、ようやく開放されたオレ。
「おまっ」
抗議しようとしたら、隣に座った広川がこちらを見て目を丸くした。
「レン、すげー髪ボサボサ。どしたの?」
「お前だよ!」
広川はあはは、と笑って両手をあわせている。
「ごめんごめん。水無瀬ちゃんとオレのあいだを邪魔しかねん奴は潰しとこうと思って」
「物理かよ!」
なんの裏も表もない明るい笑顔に力が抜ける。
と思ったら、ふと、何かに気づいたように笑うのをやめた。
手を伸ばしてくる。手はオレの顔の横を通り過ぎ……。
耳の後ろの髪に触れて、指でつまんだ。
えっ、えっ?
女子だったらドキンってするやつ?
男子だからしないけど。
ま、まあ、黙ってりゃイケメンだよな。
でも、なに?
オレが動けずにいると、広川は至近距離から目を合わせ、柔らかく優しく笑った。
「レンって、すげー猫っ毛。将来薄毛になっても、レンはレンだよ」
はっ?
な……な……
「不吉なこと言うな。おおきなお世話だっつーの!」
真後ろの席からぷっと女子が吹きだす声が聞こえてくる。笑われた。いじられ枠は狙ってないのに!
教室のドアから教師が入ってきて、オレも広川も慌てて前を向く。
どーせニヤついてんだろうが!
ちら、と見た横顔は意外にも笑っていなかった。すっとした鼻筋が際立つ。
水無瀬さんが甘くなるのも、無理はない。
っていうか、いつから『レン』呼びになったんだ?!
※ ※ ※
学校帰り、スーパーに寄った。
帰国して1週間、マンションに入っているコンビニで全てを済ませていたが、ついにデビューだ。
広川に言われたからじゃない。チキン南蛮弁当も飽きたから。
オレはかごを持ってスーパーの中をぐるぐる回る。
なにを作ろう? あ、中学のときに家庭科で作った、ワンパン料理のパスタがいいかもしれない。
フライパンに、パスタと一緒にトマトケチャップやウィンナー、コンソメをぶち込んで煮るだけだ。でもウマかった。
レジに並んでいるとき、ふと、レジ前の棚に並んでいる歯ブラシが目に入る。
歯ブラシか。
また、友達が泊まりにくることあるかな?
歯ブラシがあった方が印象いいかな。
女の子が来てくれて「あ、歯ブラシ忘れた!」「予備あるよ」なんてな!
オレはいそいそと歯ブラシをカゴにいれる。
帰宅してキッチンに立ちパスタを作る。
バラエティ番組を見ながら、初の自炊料理に「うまい!」と舌つづみを打つ。
味付けがちょうどよかった。コンソメ2個にして正解ーーなんて、語る相手もいないから、口にもださないけれど。
ま、一人暮らしなんてこんなもんか。
窓の外を見ると、いつの間にかまっくらになっていた。カーテンを閉める。
フライパンと食器は食洗機にいれた。操作方法は広川が教えてくれたからマスターしている。
ブシャーと水音がして、運転が始まる。
シャワーを浴びて部屋に戻ったら、テレビがつけっぱなしだった。
深夜テンションのバラエティ番組を消すと、部屋は急に静かになる。
ソファベッドに仰向けに寝転がり、上を見る。
白い天井、三つ並んだ小さなダウンライト。
…………。
歯磨きしようと洗面所に行って、
おい!!
思わずツッコミをいれた。
洗面所の歯ブラシ立てに、歯ブラシが二本立っていた。
グリーンのはオレ。
ブルーのは、…………。
ここはお前んちじゃねええええ!!
図々しいにもほどがある!

