隣の席の大型犬みたいな男がぐいぐいくる

♡広川のひとりごと♡

夜11時。
ベッドに寝転がって、今日学校でもらったキャンプの写真を見ていた。

釣り糸コンニャクの写真。
レンがビビって大騒ぎしたんだよな。

知らず知らず、笑いがこみ上げる。

オレがピースしているバスの中の写真。
ーーに見せかけて、寝ているレンが写っている写真。あおのいたまま、口は半開き。かわい。

レンは、天窓からの夕焼けの写真を選んでいた。
2人で一緒に見たこと、覚えてるのかな。覚えてたらいいな。

シャワーを浴びようと思ったとき、

タラララッタラララッ

電話がかかってきた。画面は「新井」。
そういえば、そろそろテストが終わる頃だ。
電話をとると、

「ちーす。ごめん。オレ、広川に謝んないといけないことがある」

「へ?!」

突然言われてドキリとする。

「お前が片思い引きずってるって、真野っちに話しちまった。相手が桐山のこと好きだったってことも」

「……なんだ、そんなこと」

ことの起こりは、2週間前。
新井から「久しぶりに会おーぜ」と呼び出された。
桐山が呼ばれていない時点で嫌な予感はしていたけど、やっぱりあの子のことだった。彼氏が出来たと告げられた。

「べつにいーよ。ま、オレ、引きずってはないけど」

「そうなん!?」

そうだよ。オレも驚いたよ。
あんなに好きだったのに、そうか、としか思わなかったことに。

「なら、いいけど。つか、じゃオレ真野っちにいらんこと。……いちお聞くけど、真野っちの話は? べつに本気ってわけじゃないだろ?」

真野っちの話というのは……話の流れで、新井に『今はレン構うほうがおもろい。男だけど可愛くて間違えそ』と漏らしてしまったこと。
新井は、オレが失恋からの逃避で、冗談を言っていると思ったようだったけど。

「うーん」

オレが黙ると、電話の向こうのトーンが少し変わった。

「……マジなん?」と、新井。

「分からんな」

「あの子の代わり? 転校生って聞いて、なんとなく重ねてるとか」

重ねる?

言われて驚いた。
レンと話していて、あの子を思い出したことはない。
逆に、新井からあの子のことを言われて、レンを思い出したくらいだ。

「それはない。そもそも似てねえし」

「確かに!」

新井が、ははっと笑った。

「まあ、いいけどさ。でも真野っちかわいーのは分かるけど、男だぜ。お前モテるんだし、あえてイバラの道行かなくてもいんじゃね」

オレはわざとらしくため息をつく。電話の向こうに届くように。

「わーてる。レンだって女の子と付き合いたいだろうし、オレだってそうだよ」

男が好きなわけじゃない。
レンが……なだけ。

消える言葉は見ないふり。

「あ、そ。でもま、あの子に引きずられて真野っち巻き込んでるわけじゃないなら」

「レンの方が可愛い」

「ぜんぜん立ち直ってんじゃん。はは」

新井は電話の向こうでケラケラと笑った。明るくて助かる。

「オレ、真野っちに、お前が失恋引きずってるって言っちまったこと、訂正したほうがいい?」

レンの笑顔が思い浮かぶ。

「いや、いいよ。話すならオレから。まあ話すか分からんけど。いまのままで満足だし」

「ふうん」

それは嘘。
レンに振り向いてほしい。認めるのが怖くてごまかしていたけど、本当は、ずっと振り向いてほしかったんだ。
胸が苦しくなるほどに。

衝動が抑えきれなくて、時々友達のボーダーを超えかけてしまう。

二の腕キスから本物のキスをしたくなった。
キスされる、とびっくりして目を潤ませていたレンに、夜、こっそり謝ったな。

肝試しで飛びつかれて、抱きしめそうになった。

マシュマロ遊びで、ソファに押し倒してキスしそうになった。

レンが熱を出したとき、深夜に顔を拭いてあげて……それだけのつもりだったのに、唇に触れたくなってしまって……。

「まー、オレは広川が元気ならいい。それだけが心配だったからさ。じゃーな」

電話が切れる。
オレはスマホを置き、レンのバスの中での寝顔写真を手に取った。

レンは、なにも知らない。オレがこんなことを考えていることも。
レンは、そんなこと望んでない。

今なら引き返せる。

だったら……。