日曜日の昼どき@サイゼリア。
ピンポーン
どこかで呼び出しのチャイムが鳴った。
オレは、たまたま通された4人がけの席に一人で座っている。
ドリンクバーに親子連れの列が出来ているのが見える。あれが噂の、好きなジュースを混ぜられるっていうヤツだな。
家族連れ、大学生らしき集団。店内は思った以上ににぎやかだ。
サイゼデビュー!!
キャンプの買い出しでドンキデビューはした。そのときに広川に「初ドンキってことは、もしかしてサイゼも行ったことない?」と聞かれた。
ない、と答えてそのまま忘れていたけど、暇な日曜日、急に思い立ったんだ。
メニューチェック。ふむふむ、かの有名なミラノ風ドリアがある。コーンピザもいいな。どれも安っ!
夢中になって見ていると、
「あれ、レーン、こんなところでっ!」
聞き慣れた声が降ってきた。広川だ。
オレは驚いて顔をあげた。
だって、別に学校の近くのサイゼじゃない。なんとも偶然。
広川は、にこにこしながら身を乗り出してきた。
「誰かと待ち合わせ? デート?」
「いや、別に」
ちら、と見ると、広川の後ろにもう一人いる。眼鏡をかけた真面目そうな雰囲気の男子で、見たことないから多分違う高校。
「じゃさ、席一緒いい? あ、コイツ、オレの中学ん時の友達!」
「ちーす、新井です。ヨロシク」
新井がぱっと笑い、ピースを頬にあてて話しかけてきた。
真面目そうに見えたけど、やっぱり広川の友達だ。類友。人懐っこい。
広川と新井がテーブルの向こう側に並んで座った。
広川がオレを紹介すると、
「あ、真野くん?! 一人暮らししてるっていう」
新井がちょうど届いたポテトをつまみながら興味ありげに聞いてくる。
広川はオレのことを話してくれていたらしい。
ちなみに新井は、トップ校に通う秀才だった。真面目そうに見えたのはまんざら嘘じゃない。
中学時代は、トークの上手い広川、スポーツの出来る桐山、秀才の新井で女子をブイブイ言わせていた……らしい。広川の自称だから知らんけど。
「一人暮らしどう? 困ったら広川、結構なんでも出来るから」
「料理教わったし、食洗機の使い方も……」
オレが言うと、あはは、と新井が声を立てて笑う。
「広川面倒見いーよな。だから女子に勘違いされる」
「レンは女子じゃねえし」と広川。
「うん、だからいいけどさ」
『勘違い』という言葉がチクリと胸を刺した。
スマホのメニューに目を落とす。
別に、勘違いはしない。するわけない。
だけど、二の腕キスが唇のキスと同じ感触か試してみようと言われたとき。
マシュマロキャッチ遊びでソファに押し倒されたとき。
キスしようとしてるんじゃないかと、勘違いしそうになった。広川からすれば、女子に対するノリをそのままやってしまっただけなんだろうけど。
メニューはピザのページで止まったまま。
「そういや桐山の彼女、どんな子?」
話題が変わった。
少し甘いもん食いたいな、と、デザートのページに進む。
お、イタリアンプリンがある! テレビで見たぞ。サイゼデビューならこれを食わないと。
店内は騒がしい。
2人はオレを気にかけず仲良さそうに話している。
「美人。バスケ部でさ、いかにも桐山と合いそう」
「どういう経緯よ?」
「学年キャンプで一緒の係で、仲良くなったらしい」
「へーうらやまし。広川は?」
「オレはまーったく。振られてばっかで」
「モテんだろうがよ。まぁいいかげんさ……」
新井は一瞬言葉を切った。広川も新井も笑っていない。
オレは、聞き耳を立てているのがバレるのが嫌で、顔を上げた。
「広川の恋愛話?」
軽く言うと、広川は一拍あけてーーいつものように、ニカッと笑った。
「まーね。色々あんのよ」
新井が横を向いてため息をついている。
オレは、ふぅんと気にしないふり。
※ ※ ※
サイゼで2時間ねばったあと、地下鉄の駅で別れた。
オレ、広川、新井は見事に別々の路線。
「じゃーなー」
「また連絡するわ」
バラバラに手を振る。オレのLINEには新井からスタンプが届いていた。新しい友人ゲット。秀才だからテスト前は世話になるつもりだ。げへへ。
「真野っちー!」
ホーム向かう階段を下りているとき、後ろから呼び止められた。
新井だった。
「なに?」
「あのさー。あ、ちょっとここじゃなんだから」
2人でホームに下りる。
新井はそのままツカツカとホームを歩き、自販機の前に立った。「なんか飲む?」と聞かれ、首を振ると、炭酸水を買って飲んでいた。
ホームは日曜の夕方で、人が多かった。ベンチは全て埋まっているので立ち話。
「大したことじゃないんだけどさ、あー、広川、ちょっと見たってほしいなと思って」
「どういうこと?」
オレが目を向けると、新井はメガネの奥からこちらを見た。
「あいつ、面倒見いいけどさ、自分の面倒は見れないタイプっつーか。中学んとき、すんげー惚れてる女の子いたんだけど、いまだに引きずってるくせに、チャラいフリしてるし」
ずきっとした。
どうしてかは分からない。広川と仲が良いつもりなのに、実は何も明かされていないことに対して傷ついたのか。
あるいは……。
「で、なんで真野っちに頼んでるかっつーと、桐山には言えない事情があってさ。あーまあ、オレもお節介なんかもしれないけど」
ホームに電車が入ってくる。
オレが乗る方のホーム。別に急いでるわけじゃないけど、ちらっと見ると、新井も電車に目をやった。
「変な意味に取らなくていいんだけど、広川、真野っちに癒されてんのかもなって。その子も転校生だったし……そんだけ! じゃな」
新井は、ペットボトルのふたを締めて、くるりと身を翻した。
オレは、階段を登っていく新井の後ろ姿を見送っていた。
ピンポーン
どこかで呼び出しのチャイムが鳴った。
オレは、たまたま通された4人がけの席に一人で座っている。
ドリンクバーに親子連れの列が出来ているのが見える。あれが噂の、好きなジュースを混ぜられるっていうヤツだな。
家族連れ、大学生らしき集団。店内は思った以上ににぎやかだ。
サイゼデビュー!!
キャンプの買い出しでドンキデビューはした。そのときに広川に「初ドンキってことは、もしかしてサイゼも行ったことない?」と聞かれた。
ない、と答えてそのまま忘れていたけど、暇な日曜日、急に思い立ったんだ。
メニューチェック。ふむふむ、かの有名なミラノ風ドリアがある。コーンピザもいいな。どれも安っ!
夢中になって見ていると、
「あれ、レーン、こんなところでっ!」
聞き慣れた声が降ってきた。広川だ。
オレは驚いて顔をあげた。
だって、別に学校の近くのサイゼじゃない。なんとも偶然。
広川は、にこにこしながら身を乗り出してきた。
「誰かと待ち合わせ? デート?」
「いや、別に」
ちら、と見ると、広川の後ろにもう一人いる。眼鏡をかけた真面目そうな雰囲気の男子で、見たことないから多分違う高校。
「じゃさ、席一緒いい? あ、コイツ、オレの中学ん時の友達!」
「ちーす、新井です。ヨロシク」
新井がぱっと笑い、ピースを頬にあてて話しかけてきた。
真面目そうに見えたけど、やっぱり広川の友達だ。類友。人懐っこい。
広川と新井がテーブルの向こう側に並んで座った。
広川がオレを紹介すると、
「あ、真野くん?! 一人暮らししてるっていう」
新井がちょうど届いたポテトをつまみながら興味ありげに聞いてくる。
広川はオレのことを話してくれていたらしい。
ちなみに新井は、トップ校に通う秀才だった。真面目そうに見えたのはまんざら嘘じゃない。
中学時代は、トークの上手い広川、スポーツの出来る桐山、秀才の新井で女子をブイブイ言わせていた……らしい。広川の自称だから知らんけど。
「一人暮らしどう? 困ったら広川、結構なんでも出来るから」
「料理教わったし、食洗機の使い方も……」
オレが言うと、あはは、と新井が声を立てて笑う。
「広川面倒見いーよな。だから女子に勘違いされる」
「レンは女子じゃねえし」と広川。
「うん、だからいいけどさ」
『勘違い』という言葉がチクリと胸を刺した。
スマホのメニューに目を落とす。
別に、勘違いはしない。するわけない。
だけど、二の腕キスが唇のキスと同じ感触か試してみようと言われたとき。
マシュマロキャッチ遊びでソファに押し倒されたとき。
キスしようとしてるんじゃないかと、勘違いしそうになった。広川からすれば、女子に対するノリをそのままやってしまっただけなんだろうけど。
メニューはピザのページで止まったまま。
「そういや桐山の彼女、どんな子?」
話題が変わった。
少し甘いもん食いたいな、と、デザートのページに進む。
お、イタリアンプリンがある! テレビで見たぞ。サイゼデビューならこれを食わないと。
店内は騒がしい。
2人はオレを気にかけず仲良さそうに話している。
「美人。バスケ部でさ、いかにも桐山と合いそう」
「どういう経緯よ?」
「学年キャンプで一緒の係で、仲良くなったらしい」
「へーうらやまし。広川は?」
「オレはまーったく。振られてばっかで」
「モテんだろうがよ。まぁいいかげんさ……」
新井は一瞬言葉を切った。広川も新井も笑っていない。
オレは、聞き耳を立てているのがバレるのが嫌で、顔を上げた。
「広川の恋愛話?」
軽く言うと、広川は一拍あけてーーいつものように、ニカッと笑った。
「まーね。色々あんのよ」
新井が横を向いてため息をついている。
オレは、ふぅんと気にしないふり。
※ ※ ※
サイゼで2時間ねばったあと、地下鉄の駅で別れた。
オレ、広川、新井は見事に別々の路線。
「じゃーなー」
「また連絡するわ」
バラバラに手を振る。オレのLINEには新井からスタンプが届いていた。新しい友人ゲット。秀才だからテスト前は世話になるつもりだ。げへへ。
「真野っちー!」
ホーム向かう階段を下りているとき、後ろから呼び止められた。
新井だった。
「なに?」
「あのさー。あ、ちょっとここじゃなんだから」
2人でホームに下りる。
新井はそのままツカツカとホームを歩き、自販機の前に立った。「なんか飲む?」と聞かれ、首を振ると、炭酸水を買って飲んでいた。
ホームは日曜の夕方で、人が多かった。ベンチは全て埋まっているので立ち話。
「大したことじゃないんだけどさ、あー、広川、ちょっと見たってほしいなと思って」
「どういうこと?」
オレが目を向けると、新井はメガネの奥からこちらを見た。
「あいつ、面倒見いいけどさ、自分の面倒は見れないタイプっつーか。中学んとき、すんげー惚れてる女の子いたんだけど、いまだに引きずってるくせに、チャラいフリしてるし」
ずきっとした。
どうしてかは分からない。広川と仲が良いつもりなのに、実は何も明かされていないことに対して傷ついたのか。
あるいは……。
「で、なんで真野っちに頼んでるかっつーと、桐山には言えない事情があってさ。あーまあ、オレもお節介なんかもしれないけど」
ホームに電車が入ってくる。
オレが乗る方のホーム。別に急いでるわけじゃないけど、ちらっと見ると、新井も電車に目をやった。
「変な意味に取らなくていいんだけど、広川、真野っちに癒されてんのかもなって。その子も転校生だったし……そんだけ! じゃな」
新井は、ペットボトルのふたを締めて、くるりと身を翻した。
オレは、階段を登っていく新井の後ろ姿を見送っていた。

