Engage Ring

 あれから数年が経ち気づけば俺も課長になっていた。そしてれーくんは部長だ。
 「あ、新しくここに配属されることとなった河野(こうの)です」
 「河野くんね、法務部課長の村山です、よろしく。じゃあ早速簡単な作業からやってみようか」
 「はい!」
 「じゃあ俺が教えるから言った通りにしてくれれば大丈夫だよ」
 「え、課長が!?」
 驚くのも無理はない。課長がマンツーマンで教えるなんて多分この会社の法務部だけだ。
 これは俺とれーくんだけのルール。社長も了承済みだから思う存分指導できる。
 「あー、ここミスあるよ。ここはこうだね」
 「ありがとうこざいます!でも課長さんいいんですか?お仕事……」
 「俺はもうデカイ仕事はだいたい終わってるから後は簡単な作業だけだよ」
 「はや!?」
 「今の部長にみっちり鍛えられたからね」
 俺はそう言ってれーくんのほうへと視線を向けた。
 れーくんもそれに気づいたのか小さく手を振ってきた。
 「す、凄いですね……僕も課長さんや部長さんみたいになれるでしょうか?」
 「なれるよ、きっと。俺達がついてるから」
 数年経って俺も自分に自信がついてきている。これもれーくんのおかげだ。
 「まぁそんな感じだね、あとはここクリックしてくれればいいよ」
 「ありがとうこざいます!」
 「じゃあ次は………」
 次やる仕事を教えようとしたその時、後ろから肩をポンと叩かれた。
 「凪沙、休憩行こ」
 「あ、はい。じゃあ河野くんも休憩取っていいよ」
 「わかりました!」
 「じゃあ俺らの代わり山岸お願いな」
 「えー!?私ですか?」
 「信頼してるぞ」
 れーくんは同じ部の係長である山岸さんにフッと微笑みかけ、俺の手を引き外へと向かった。
 「今日はなぎさが好きなのいっぱい入れたから」
 「ほんとだ、嬉しい」
 「よかった。ねぇなぎさ、俺らさ海外行ってみない?」
 「え?海外?」
 「そう、結婚しに行こ」
 突然の提案に思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
 ずっと指輪つけてた俺もだけどれーくんのほうがよっぽど重いのかもしれない。
 「日本じゃ同性婚できないけど海外ならできるじゃんか」
 「それはそうだけどパスポートあったかな……」
 「申請しとこ、多分二週間くらいで出来るよ」
 「お金は?」
 「俺、貯金880万」
 「なら大丈夫か」
 それから俺達は海外旅行の計画を立て、有給を取りフランスに行くこととなった。
 「………俺フランス語も英語もできないけどいいの?」
 「俺ができるし翻訳使えばいいじゃん」
 「それはそうだけどさー!」
 「Bonjour! êtes-vous frères ?(こんにちは!二人は兄弟ですか?)」
 俺達が話していると突然カメラを持った男性が声をかけてくる。何言ってるかわからん。
 「Non, nous sommes en couple.(いいえ、俺達は恋人同士です)」
 れーくんもフランス語がペラペラだが全く何言ってるかわからない俺は置いてけぼりになっていた。
 (そういえば翻訳!)
 慌ててスマホを取り出すとれーくんが「大丈夫」と囁いてきた。
 「写真家なんだって、無料で撮ってくれるらしいから撮ろう」
 「あ、うん!」
 「1.2.3!」
 俺達は恥ずかしがりながらも満面の笑みで写真を撮ってもらった。
 「merci!」
 「Au revoir!」
 フランス語のわからない俺は終始何を言っているのか理解できなかった。
 「手続き済ませたし明後日にでもしようか、家族もみんな来るよ。あの人もね」
 「あの人?」
 「今日明日は旅行楽しんだり服選んだりしようか」
 「わかった!」
 そうして俺達はパリでスイーツを食べ、エッフェル塔や凱旋門を間近で見たりして旅行を思う存分楽しんだ。

 そして式当日
 式場には俺達のお母さん、お父さん。そしてれーくんのお姉さん達や叔父さん、叔母さん達。そして前の部長の澤部さんや山吹さんなんかも来てくれていた。
 そして奥のほうにはどこか見覚えのあるような見知らぬ男性が座っていた。
 「あなた達に神の祝福がありますように」
 そうして結婚式のクライマックスを終え式場は少人数でも十分大きな拍手が鳴り響いた。
 「おめでとう、まさか二人が結婚するなんてね」
 「あ、ありがとう、でも……いいの?俺達男同士だけど」
 「いいのよ!我が子の幸せが嬉しくない親なんていないでしょ!」
 お母さん達のその言葉に俺は思わずその場で泣き崩れていた。
 「よっ、見ねえ間にこんなでかくなっちまってよ」
 俺が泣いていると突然後ろのほうに座っていた男性がこちらへと向かってきていた。よく見ると結構イケメン。
 「えっと、どちら様でしたっけ」
 「えー?まぁ忘れてて当然か」
 するとそれを見ていたれーくんは慌てて俺のほうへと駆け寄り俺を抱きしめる。
 「おい!俺のなぎさに何してんだバカ」
 「相変わらずバカなのは変わってないな、嶺は」
 「なぎさ、琉風に何された?」
 (……え?琉風?)
 聞き覚えのある名前、あの時の秘密基地のお兄さんだ。
 「ちげーよ、こいつ親によしよしされて泣いたんだよ」
 「え、もしかして琉風さん……?」
 「ん?うん、そーだよ」
 「ええ!?お久しぶりです」
 「十八年ぶりか?久しぶり」
 琉風さんは涙でぐしゃぐしゃの俺の顔を覗き込みながら頭をわしゃわしゃ撫でてくる。
 「なぎさに触んなバカ」
 「生意気なの変わんねえな」
 「というかなんでここに?」
 琉風さんなんて連絡先も知らないしれーくんが引っ越したすぐ後にいなくなってしまったのに………
 「んーまぁ、嶺の親とは繋がってたからな。お前ともあとで繋げとくか、LIME」
 「は、はい!」
 「え」
 その後の結婚式もわちゃわちゃしながらも子供みたいにいっぱいはしゃいで、子供みたいに楽しんだ。
 「はいチーズ!」
 パシャリとシャッターが鳴り幸せな結婚式は幕を閉じた。
 「楽しかった?」
 「うん」
 「よかった、なぎさ。大好きだよ」
 「俺も大好き」
 俺達は二人きりのホテルでキスを交わした。これからもずっと一緒だと約束をして。
 「おーい、イチャイチャカップル。飯行くぞ」
 「……空気読めないバカが同じホテルとか最悪」
 「琉風お兄さん、な?」

 数週間後
 「じゃあ今日別の仕事しようか、まずは………」
 「あれ、課長さん指輪増えました?しかも結婚されたんですね」
 「ん?うん、そうだよ」
 「へぇ〜、ご結婚おめでとうございます!」
 「ありがと」
 「お相手は?」
 河野くんは興味津々に聞いてくるが俺の答えは決まっている。
 「内緒!」
 隠すことでもないけれど俺達のことは俺達だけの内緒にしよう。
 内緒にしたってずっと一緒なことには変わりないんだから!
 そして俺の薬指と小指に入った指輪が太陽の光でキラッと輝いた。