『なんとミス研に新入生が入部しました! 一年男子のKくんです! 彼は中学時代はバスケ部でしたが、高校に上がるのを機にミス研への入部を決めてくれて――』
のろのろとキーボードを打っていた手が止まった。「はぁ……」とついでに小さなため息も漏れる。
勉強もお風呂も済んだあとのリラックスタイム、僕は自分の部屋でパソコンを睨んでいた。
画面に映っているのは、僕がミス研に入部したときから書いている高校の部活紹介のブログだ。
部活の様子をこまごまとアップしている半分趣味のブログだけど、今日ばかりは文章をつづる手が進まない。もやもやした気持ちの原因は、今日の部活で木崎くんと言い争い的なものをしてしまったから。
(……あれって喧嘩だったのかな。それよりは木崎くんが突っかかってきたって感じだったような)
冷静になった今考えてみれば、わりとローテンションであまり人に興味がなさそうな木崎くんがあんなに食い下がってきたのはどこか妙だ。
昔木崎くんは僕と会ったことがあると言っていたし、そのことと関係があるのだろうか。
わからない。わからないけど――。
「はー……駄目だ」
僕は諦めてブログの記事を途中で保存し、パソコンを終了させた。これ以上続けていても、よい記事は書けなそうにない。
(……来月の読書会の課題図書でも探そうかな)
ミス研では月に二回、部員が選んだ本を課題図書してみんなで読み、部活の中で批評会をしているのだ。
椅子から立ち上がり、壁一面に作りつけられた本棚の前に立つ。ずらりと並んだ本のタイトルをぶつぶつと呟きながら、僕は本の表紙を指で辿った。
(あ、これなんか初心者向けにいいかも)
十年ほど前に出た有名なミステリー作家のデビュー作で、初心者でも読みやすいと評判が高いものだ。これなら木崎くんも読みやすいかも。
本を抜き出しぱらぱらと捲っていると、本に挟まっていた紙の束がばさりと床に落ちた。
「……あ」
それは昔書いていた小説の原稿用紙だった。確か……饒舌な探偵が主人公の推理小説だ。捨てたと思い込んでたけど、こんなところに挟まっていたのか。
途端に苦い思いがこみ上げてくる。
好きが高じて小説を書き始めたのは中学一年生のとき。初めて書いた小説を文学賞に応募してみたのはほんの気まぐれだった。だけどそれがまさか受賞。当時の僕はかなり思い上がっていた。
自分は小説を書く才能があるんじゃないかと本気で思ってしまったのだ。
だけど現実はそう甘くはない。次に大きな出版社の文学賞に張り切って出したものの、一次も通らずに落選。それがものすごくショックで、結局そこで止めてしまった。
内気なのに自意識過剰で、根性はないくせにプライドだけは高い。それが本当の僕だ。
『もったいないと思います。僕は先輩なら出来ると思うから』
昼間に言われた木崎くんの言葉がふいに蘇った。木崎くんは迷いのないまっすぐで強い目をしていた。自分に自信を持っている人間特有の目だ。
きっと木崎くんなら、一度駄目だったくらいで諦めたりはしないだろう。
ざりっと胸の底がざらつく。身体の中で眠っていた嫌なスイッチが点滅しそうになる。
「……もう書かないし」
僕はその原稿用紙を、ぐしゃっとごみ箱の中に突っ込んだ。
のろのろとキーボードを打っていた手が止まった。「はぁ……」とついでに小さなため息も漏れる。
勉強もお風呂も済んだあとのリラックスタイム、僕は自分の部屋でパソコンを睨んでいた。
画面に映っているのは、僕がミス研に入部したときから書いている高校の部活紹介のブログだ。
部活の様子をこまごまとアップしている半分趣味のブログだけど、今日ばかりは文章をつづる手が進まない。もやもやした気持ちの原因は、今日の部活で木崎くんと言い争い的なものをしてしまったから。
(……あれって喧嘩だったのかな。それよりは木崎くんが突っかかってきたって感じだったような)
冷静になった今考えてみれば、わりとローテンションであまり人に興味がなさそうな木崎くんがあんなに食い下がってきたのはどこか妙だ。
昔木崎くんは僕と会ったことがあると言っていたし、そのことと関係があるのだろうか。
わからない。わからないけど――。
「はー……駄目だ」
僕は諦めてブログの記事を途中で保存し、パソコンを終了させた。これ以上続けていても、よい記事は書けなそうにない。
(……来月の読書会の課題図書でも探そうかな)
ミス研では月に二回、部員が選んだ本を課題図書してみんなで読み、部活の中で批評会をしているのだ。
椅子から立ち上がり、壁一面に作りつけられた本棚の前に立つ。ずらりと並んだ本のタイトルをぶつぶつと呟きながら、僕は本の表紙を指で辿った。
(あ、これなんか初心者向けにいいかも)
十年ほど前に出た有名なミステリー作家のデビュー作で、初心者でも読みやすいと評判が高いものだ。これなら木崎くんも読みやすいかも。
本を抜き出しぱらぱらと捲っていると、本に挟まっていた紙の束がばさりと床に落ちた。
「……あ」
それは昔書いていた小説の原稿用紙だった。確か……饒舌な探偵が主人公の推理小説だ。捨てたと思い込んでたけど、こんなところに挟まっていたのか。
途端に苦い思いがこみ上げてくる。
好きが高じて小説を書き始めたのは中学一年生のとき。初めて書いた小説を文学賞に応募してみたのはほんの気まぐれだった。だけどそれがまさか受賞。当時の僕はかなり思い上がっていた。
自分は小説を書く才能があるんじゃないかと本気で思ってしまったのだ。
だけど現実はそう甘くはない。次に大きな出版社の文学賞に張り切って出したものの、一次も通らずに落選。それがものすごくショックで、結局そこで止めてしまった。
内気なのに自意識過剰で、根性はないくせにプライドだけは高い。それが本当の僕だ。
『もったいないと思います。僕は先輩なら出来ると思うから』
昼間に言われた木崎くんの言葉がふいに蘇った。木崎くんは迷いのないまっすぐで強い目をしていた。自分に自信を持っている人間特有の目だ。
きっと木崎くんなら、一度駄目だったくらいで諦めたりはしないだろう。
ざりっと胸の底がざらつく。身体の中で眠っていた嫌なスイッチが点滅しそうになる。
「……もう書かないし」
僕はその原稿用紙を、ぐしゃっとごみ箱の中に突っ込んだ。


