バラードはうまく歌えない

 撮影はブックレットと言っても、六曲分の歌詞とちょっとしたメッセージが載ったものだから俺たちは背景みたいなもので。

 特に俺はできるだけ顔がわからないようにとアルバムジャケットのような後ろ姿に近い横を向いたショットだとか完全後ろ姿だとかをいくつか撮影した。全部使うわけじゃなくて一つか二つだろうけど。

「ジャケット撮影より疲れたんじゃない?」

 運転席の藤堂さんがルームミラー越しに後部座席の俺を見る。

「俺あんまりポーズとか言われなくて、だらっとしてていいよって言われて……」
「ああ、なるほど。仕上がりが楽しみだね」

 撮影の帰り道。俺は藤堂さんの運転で学校の寮に戻る。

 俺以外のみんなは高宮さんの行きつけのお店で晩飯。酒を出すところだからと、俺は一人帰ることになった。高級ステーキ屋さんなんだとか。
 高宮さんにはそのうちランチを、と言ってもらったけど。この人は忙しいだろうから「そのうち」は予定に入らないだろう、俺みたいなぺーぺータレントなんて特に。

 藤堂さんは、高宮さんに対抗して寿司でも食べて帰ろうか、と笑いながら提案してくれたけど、寮の食堂の時間には間に合いそうだし藤堂さんの帰宅が遅くなる。多分、俺を送った後会社に戻るはずだ。一緒に飯なんか食ってたら、時間がずれ込んでいく。

「お前、あんま藤堂さんに迷惑かけるなよ?」

 飛鳥さんに帰り際に言われた言葉だ。

 わかってる。言われなくたって。藤堂さんはマネージャーであって、世話係とかそんなんじゃない。ただ、俺が未成年だからと私生活も気にかけてくれて。それが飛鳥さんの言う「迷惑」だ。

 スカウトしてくれた時からずっと些細なことまで気にかけてくれて、俺は大事にされてると思う。
 ひとりみんなから外れて集中的にダンスレッスンをして、レコーディングをして、忙しいという言葉だけでは言い表せなかった年末から二月頃、毎日連絡をくれて励ましてくれた。もちろんフミ先生とのレッスンの場にも来てくれて差し入れをしてくれた。

「樹君を全力で守ります。最後まで面倒を見ます。もしうまくいかなくても最後まで守ります。ですが樹君は必ず花を咲かせます。それは私の力以上に彼の力でです。弊社に、私に樹君を預けていただけませんでしょうか」

 そう言って親を説得してくれた。迷惑をかけたくないし、藤堂さんの期待に応えたい。

「樹君、学校のことでも仕事のことでもいいんだけど、困ってることはある? ここ最近少しバタバタしててあまり樹君と話できてなかったよね?」
「いえ、ないです」

 困ってることはない。ただ、もう少し俺は頑張らなければとは思ってるけど。もっともっと歌もダンスも頑張らなければならない。

「そう? 愚痴でもいいよ。吐き出せば楽になることもあるからね。勉強も少しは見てあげられるよ」

 最後は少し笑みが混ざっていた。でもきっと見てほしいと言えば見てくれるのだろうと思う。藤堂さんは冗談であってもできないことは言わない人だ。

 そこまでは甘えられない。寮の部屋で一人黙々と勉強するよりかなり捗るとは思うけど。

 ……思う、から。少し想像してしまった。
 俺の向かいで藤堂さんは自分の仕事をしながらかもしれない。わからないところがあった時に訊く感じで。藤堂さんはすぐに手を止めて、俺のノートを見て、間違いをするすると指摘してくれて。

 いやいや待て待て、そんな想像意味がない。一人だけ食事会に参加できなかったから拗ねてる、んだろうか。
 いやいやいや。藤堂さんはここにいるんだし。

「切羽詰まったらお願いします」
「もちろん。その時は頼ってね」

 一人で頑張ってちゃんと志望校合格します、と言えばいいのに、俺。

 ……多分、気の利いたことが言えないのは眠いからだ。瞼が落ちようとする。高宮さんの超低音艶ボイスとはまた違う、温かみのある藤堂さんの低音ボイスは心地良くて余計に。

「もう少しかかるから、眠ってていいよ」
「すみません、少し……」

 すうっと意識は落ちていった。