え?
「俺、車で来てるんで、樹は送っていきます。飯食わせて帰しますんで」
え、飯?
凛さんは藤堂さんの方を向いていて、俺には背中しか見えない。
「……そう? じゃあ今日はお願いするよ。帰りついたら、樹君、いつものように連絡してね。凛君も僕に連絡ね」
え、いや。あ、いや、いいんだけど、うん、いいんだけど。凛さんが? 藤堂さんはそれでいいの? 仕事なんじゃ……。
「わかりました。よし、行くぞ樹。じゃ、みんなお疲れ!」
凛さんは意気揚々とレッスン室を出て行った。
「あ、お、お先に失礼します。お疲れさまでしたっ」
振り返りもせずにどんどん歩いていくので、俺も後をついていくしかなく。
「お疲れ様、凛に美味しいもの食べさせてもらいなね」
東雲さんがにこにこと手を振ってくれた。
……東雲さんの隣にたまたま立っていた飛鳥さんが眉間にしわを寄せて俺を見ていた気がするけど、見なかったことにする。飛鳥さんは凛さんをとても尊敬している。特にダンスの面で。
よく凛さんに振りを見てもらっているし、凛さんと話す時の顔がとても嬉しそうで。飛鳥さんの邪魔?をするとかそんなんじゃないんで今日は許してください。
俺は小走りでレッスン室を出て凛さんの後を追った。
「今日は残念だったな」
凛さんの、ちょっとかわいいフォルムの軽自動車の後部座席に乗せてもらい発進するや否や、凛さんが言った。
え?
「文化祭、だったんだろ?」
「……はい」
知ってたんだ。もしかしてみんな知ってたのかな。今日が三ツ矢高校の文化祭だったってことを。
「藤堂さんから聞いたのは東雲と俺だけだ。誰もお前に気は遣ってないからな?」
一般の人が学校に出入りするので(と言ってもグラウンドだけだが)、大事をとって、俺は欠席することになった。三年だから最後の文化祭だったけど、仕方ない。
三年生は飲食の模擬店をやれる唯一の学年で、ウチのクラスはうどんとおにぎりをやることになっていた。みんな楽しみにしてたからきっと繁盛しただろう。
ちょうど一年。一年前の文化祭のステージで、藤堂さんに声をかけてもらった。今のこの状況は一年前の俺は想像だにできなかった。嬉しくて、楽しくて、誇らしくて。世界が半分くらい変わって、ほんの少し寂しさもあって。
でもそれは俺が望んだ先の結果だ。みんなと離れていくのを追いかけることはできない。そこにいるようで離れて行っているのは本当は俺なのだろうから。
「飯、何食いたい?」
赤信号で停車中、ルームミラーで後部座席の俺を見る。……あれ? じゃあ今、どこに行こうとしていたのだろう。ドライブ?
「……特には。凛さんは?」
「俺もなあ……俺んち来るか、とも思うがそれもな……回る寿司食いに行くか」
「寿司、ですか」
「回る方な」
いや、それでも、寿司って。
「末っ子にはちゃんと食わせないと。俺の務めだろ」
そんなことはない。食わせる義務なんて。
「じゃ、なんだ。プライベートでってことにするか」
プライベートならば、なおさら折半だろう。俺も給料は貰ってる。が、親管理で小遣いとして一部を送金してもらってる。
それでも普段使うことない分、飯代ぐらいちゃんと払える。
「お前に奢ってもらうのは、お前がソロデビューしてからだな」
そこで信号が青に変わり、車は発進した。
ソロデビュー、ってそんな無茶を。そもそもそんな話、一ミリも、影すらもない。
「末っ子は兄貴たちに奢られとけばいいんだよ。京なんかがっつり貯めてそうだから、回らない寿司に連れて行ってもらえ」
「……そんなことできませんよ」
京さんに回らない寿司に連れて行ってくれって、ただの己の欲でねだるなんて、誰がそんなこと言えるんだ。……飛鳥さんなら言えそうか?
「うーん、よし。寿司は京ってことにして、これからゲーセン行くぞ」
「え?」
寿司が惜しいとかじゃないんだけども、ゲーセン?
「飯はテイクアウトでいいか?」
「え、ええ、はい、俺は何でも」
「じゃあ、降りろ」
気付けば、車は複合型アミューズメント施設の駐車場に入っていた。
「これから飯を賭けた勝負だぞ、樹」
ん?
「俺、車で来てるんで、樹は送っていきます。飯食わせて帰しますんで」
え、飯?
凛さんは藤堂さんの方を向いていて、俺には背中しか見えない。
「……そう? じゃあ今日はお願いするよ。帰りついたら、樹君、いつものように連絡してね。凛君も僕に連絡ね」
え、いや。あ、いや、いいんだけど、うん、いいんだけど。凛さんが? 藤堂さんはそれでいいの? 仕事なんじゃ……。
「わかりました。よし、行くぞ樹。じゃ、みんなお疲れ!」
凛さんは意気揚々とレッスン室を出て行った。
「あ、お、お先に失礼します。お疲れさまでしたっ」
振り返りもせずにどんどん歩いていくので、俺も後をついていくしかなく。
「お疲れ様、凛に美味しいもの食べさせてもらいなね」
東雲さんがにこにこと手を振ってくれた。
……東雲さんの隣にたまたま立っていた飛鳥さんが眉間にしわを寄せて俺を見ていた気がするけど、見なかったことにする。飛鳥さんは凛さんをとても尊敬している。特にダンスの面で。
よく凛さんに振りを見てもらっているし、凛さんと話す時の顔がとても嬉しそうで。飛鳥さんの邪魔?をするとかそんなんじゃないんで今日は許してください。
俺は小走りでレッスン室を出て凛さんの後を追った。
「今日は残念だったな」
凛さんの、ちょっとかわいいフォルムの軽自動車の後部座席に乗せてもらい発進するや否や、凛さんが言った。
え?
「文化祭、だったんだろ?」
「……はい」
知ってたんだ。もしかしてみんな知ってたのかな。今日が三ツ矢高校の文化祭だったってことを。
「藤堂さんから聞いたのは東雲と俺だけだ。誰もお前に気は遣ってないからな?」
一般の人が学校に出入りするので(と言ってもグラウンドだけだが)、大事をとって、俺は欠席することになった。三年だから最後の文化祭だったけど、仕方ない。
三年生は飲食の模擬店をやれる唯一の学年で、ウチのクラスはうどんとおにぎりをやることになっていた。みんな楽しみにしてたからきっと繁盛しただろう。
ちょうど一年。一年前の文化祭のステージで、藤堂さんに声をかけてもらった。今のこの状況は一年前の俺は想像だにできなかった。嬉しくて、楽しくて、誇らしくて。世界が半分くらい変わって、ほんの少し寂しさもあって。
でもそれは俺が望んだ先の結果だ。みんなと離れていくのを追いかけることはできない。そこにいるようで離れて行っているのは本当は俺なのだろうから。
「飯、何食いたい?」
赤信号で停車中、ルームミラーで後部座席の俺を見る。……あれ? じゃあ今、どこに行こうとしていたのだろう。ドライブ?
「……特には。凛さんは?」
「俺もなあ……俺んち来るか、とも思うがそれもな……回る寿司食いに行くか」
「寿司、ですか」
「回る方な」
いや、それでも、寿司って。
「末っ子にはちゃんと食わせないと。俺の務めだろ」
そんなことはない。食わせる義務なんて。
「じゃ、なんだ。プライベートでってことにするか」
プライベートならば、なおさら折半だろう。俺も給料は貰ってる。が、親管理で小遣いとして一部を送金してもらってる。
それでも普段使うことない分、飯代ぐらいちゃんと払える。
「お前に奢ってもらうのは、お前がソロデビューしてからだな」
そこで信号が青に変わり、車は発進した。
ソロデビュー、ってそんな無茶を。そもそもそんな話、一ミリも、影すらもない。
「末っ子は兄貴たちに奢られとけばいいんだよ。京なんかがっつり貯めてそうだから、回らない寿司に連れて行ってもらえ」
「……そんなことできませんよ」
京さんに回らない寿司に連れて行ってくれって、ただの己の欲でねだるなんて、誰がそんなこと言えるんだ。……飛鳥さんなら言えそうか?
「うーん、よし。寿司は京ってことにして、これからゲーセン行くぞ」
「え?」
寿司が惜しいとかじゃないんだけども、ゲーセン?
「飯はテイクアウトでいいか?」
「え、ええ、はい、俺は何でも」
「じゃあ、降りろ」
気付けば、車は複合型アミューズメント施設の駐車場に入っていた。
「これから飯を賭けた勝負だぞ、樹」
ん?

