おっさんバックパッカーは異世界へ行っても自由気ままに旅をする。

「へえ~まだ資料なんかが残っているのか。さすがに今の紙とはだいぶ違うみたいだな」

「半分ほどは風化してしまったが、まだ残っておる書物なんかもあるのじゃ。さすがにこれらは触れないように頼むわい」

「ああ、了解だ」

 食堂や広場ほどは広くないが、それでも結構な広さのある部屋の中にたくさんの棚があった。新しそうな木製の棚だし、この遺跡へと持ち込んだ物だろう。

 この世界の紙は前世まで綺麗ではないが、植物の繊維を使用している。だが、遠目から見た感じだともっと分厚く硬そうな物だった。むしろ木片に近いかもしれない。

「おやタルム様、そちらのお方は?」

「昨日知り合ったガクト殿じゃ。多くの国を旅しており、古い文字などにとても詳しいので、一緒に来てもらった。なにかあれば儂が責任を取るから安心するとよい」

「ええ、タルム様が連れて来られる方なら大丈夫でしょう」

「………………」

 この部屋にはタルムさんと同じようなローブを着た魔法使いの人が7~8人いる。同じようにこの遺跡の文字や魔法などを研究している魔法使いだろう。

 そしてそんなことを言われてしまっては怖いな。下手に動いてタルムさんに迷惑をかけるとまずいので、大人しくしているとしよう。タルムさんはもう引退したと言っていたが、随分と慕われているようだ。

「この書物によると、このマリスラ王宮の中に巨大な魔石が設置されているらしいのじゃが、その場所がまだ分かっていないのじゃよ。貴重な場所じゃし、無暗に壊すわけにもいかんからのう」

「なるほど……」

 そんな重要そうな情報を部外者である俺に話してもいいのだろうか? もちろん変なことをする気はないし、ここで見聞きしたものを他の人には伝えるつもりはないが。

「ところどころが破損して虫食いのようになっており、なかなか解読が進まぬのじゃよ」

「本当だ。確かにこれは文字が読めたとしても難しそうだな」

 タルムさんがゆっくりと見せてくれた紙か木片のような物にはこの遺跡に刻んであった文字が書かれていたが、ところどころ破損して読めない部分がある。さすがに俺も言語理解スキルがあったとしても、これを完璧に読むことは無理かもしれない。

 ……ただ、それ以外の部分は読めそうだし、なんとなくだが意味がわかりそうな気もする。とはいえ、さすがにこの場では言わない方が良さそうだ。また機会があれば昨日と同じようにうまくヒントを伝えてもいいかもしれない。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「いやあ~王宮跡地に入れるなんて、とても良い経験ができたよ。タルムさん、ありがとう」

「なあに、ガクト殿のおかげで研究がいろいろと進んだからのう。礼を言うのはこちらのほうじゃぞ」

 立ち入り禁止であった王宮跡地を一通り見せてもらった。本当に貴重な体験をさせてもらったものだな。

 昨日はタルムさんだけでなく、研究をしていた魔法使いの人と一緒に晩ご飯を食べ、とても楽しい夜を過ごすことができた。またタルムさんが高級な食材を振る舞ってくれて、俺がそれを料理した感じだな。

 魔法使いの人たちも俺の旅の話を聞いて楽しんでくれたようだし、俺もみんなの研究の話を聞くのは楽しかった。ただ、途中でだいぶ専門的な話がヒートアップしていたな。酒の入った研究者というのは議論が過熱するらしい。

「う~む、もうしばらくここにおってくれればよかったのじゃがのう……」

「ありがたいお誘いだが、俺もまだまだ行きたい場所があるからな」

 そして朝になって、魔法使いの方々に挨拶をしてからこのマリスラ遺跡を出発する。タルムさんはわざわざ入り口まで見送りに来てくれた。

 俺としてももうしばらく滞在して良かったのかもしれないが、ぼちぼちまたカトレアやニッグへ会いに行かなければな。それにまだ行ってみたい場所は山ほどある。旅人はひとつの場所でずっと留まれないのだよ。

「もしまたこのマリスラ遺跡に来ることがあれば、ぜひ儂に声をかけてくれ。たまにふらっとどこかへ行っているかもしれぬが、ここで研究をしている者に伝えてくれれば、すぐに儂まで連絡してくれるからのう」

「了解だ。またお邪魔させてもらうよ」

「うむ。この2日間はとても楽しかったし、研究が進んでとても有意義じゃったわい。ガクト殿が次に来る時までに張り切ってもっと良い食材を準備しておくとしよう」

「おっ、それは楽しみだ。とはいえ、ブラックワイバーンの肉でも十分過ぎるほどうまかったから、あんまり無理はしないでくれよ。それじゃあまたな!」

「うむ、またどこかでのう!」

 タルムさんと別れて先を進む。

 ここには再び来るだろうから、きっとタルムさんとはまた会えるだろう。



「むむっ、そのブラックワイバーンの肉とやらは妾も食べてみたいのじゃ!」

「まあ運よく手に入れることができたらな。お金は多少あるが、強い魔物だからなかなか手に入らないんだよなあ……」

 マリスラ遺跡を出発して、久しぶりに宿へ泊った。台所を借りて料理を作って自分の部屋へ持ってきて、いつものように女神と一緒に晩ご飯を食べている。ご飯を食べながら遺跡でのことを話したら、女神のやつも食べたいようだ。

 自分の世界の食材を自由に手に入れられればいいのにな。

「ガクトのスキルなら魔物などどうとでもなるであろう?」

「確かに瞬間転移スキルを使えば、逃げるだけじゃなくていろいろとやりようはある。だが少なくとも俺が多少危険になることは間違いないから、そんなことは絶対にしないぞ」

 少しでも俺が危険になるならその選択肢はなしだ。引き続き安全第一で旅をしていくことにしよう。

 ただ、いつも女神からもらったスキルには世話になっていることだし、そういった珍しい食材を見つけた時は購入するか。女神だけでなく、俺も食べたことのない食材に出会うのは楽しみだからな。

「ガクトらしいのう。まあ、ガクトが長生きしてくれた方が妾もそれだけ楽しめるということじゃからな。またおいしい料理を期待しているのじゃ!」

「ああ、任せておいてくれ!」

 これからもまだ旅は続く。

 いろんな料理や観光地、まだまだ食べたい食材や見たい光景は無限にある。せいぜい俺の気のすむまでは自由気ままにいろんな場所へ行くとしよう。

 さて、明日はどこへ行こう!




 —完—