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 夏も段々と近づいてきて、クリスのお腹も目立ち始めた。
 でも、ちょっと気になる事が。

「うーん、僕も何人か妊婦さんを見てきたけど、普通の妊婦さんよりもお腹が大きい気がする……」
「双子の可能性もあるわね。確か、メアリー様が双子を妊娠した時はこのくらいの大きさだったわ」

 朝の治療を終えたクリスは、にべもなく答えた。
 確かにメアリーさんも、妊娠中はお腹が大きかったっけ。

「私は特に気にしていないわ。一人でも二人でも、元気な赤ちゃんが生まれてくれればね」

 何というか、クリスはもう母親のような表情だ。
 本人は大して気にしていない分、僕もスラちゃんもクリスの事を気をつけるようにしよう。

「何というか、ケン君は本当にクリスちゃんの事を心配しているのね。確かにクリスちゃんのお腹は私くらい大きかったけど、クリスちゃんは体を鍛えているし大丈夫よ」

 出勤した執務室にたまたまメアリーさんがいて、朝のクリスとのやりとりを話した。
 メアリーさんも、今は気にしなくてもいいと言っていた。
 でも、念のためにクリスの体調には気をつけないと。
 スラちゃんも、当面クリスにくっついて様子をみることにした。

「それに、私の旦那様はここまで優しくしてくれなかったわ。普段はとても優しいのにね」
「こふっ……」

 おお、アーサー様がお茶を口にした瞬間にメアリーさんが爆弾発言をしたよ。
 アーサー様が思わずお茶を吹き出しそうにしたけど、ちょっと意外だった。

「あの時は、仕事が物凄く忙しい時期だったのだよ。ケン君の様な優秀な職員も少なかったのだよ」
「ふふふ、私もそのくらいは分かっておりますわよ。ただ、言ってみたかっただけですわ」

 メアリーさんの笑顔の前に、アーサー様はタジタジだ。
 僕もまだ小さかった頃だから、アーサー様の補佐とかできなかった。

「ケン君も、仕事にかまけて奥様へのサポートを忘れてはいけないわよ」
「はい……」

 僕も、メアリーさんの笑顔の前ではただ頷くことしかできませんでした。
 これからも、クリスにできるだけ気を使う様にしておこう。
 メアリーさんは公務があるので執務室を後にしたが、アーサー様は多大なるダメージを受けて執務机に突っ伏していたのだった。

「あー、男性は出産の大変さが分からないのもあるわね。私の旦那様も、赤ちゃんはとても可愛がるのにね」
「ごぶっ!」

 昼食時に王家の食堂に誘われたのだが、今度は王妃様が陛下にぶっこんできた。
 陛下は、我慢しきれずに少し水を吹き出していた。

「お父様、そうだったよ?」
「そうなのよ。私が高齢出産だったのに、軽い気持ちで大丈夫って言っていたのよ」
「えー!?」

 ビアンカちゃんが王妃様とあれこれ話す度に、何だか陛下が小さくなっているぞ。
 陛下は軍人気質だから、多少の怪我や痛みとかは気にしないもんなあ。
 アーサー様も、こればかりはフォローのしようがなかった。

「ケン君は、逆に気にしなくてもいいのよ。クリスちゃんの事を心配しすぎているところもあるわ」

 王太后様は、息子夫婦のやり取りを無視して僕に話しかけてきた。
 とはいえ、僕も帝国からの使節団が来たら忙しくなる。
 クリスも僕の予定は分かっているけど、ちびスライム達にクリスの面倒をみてもらわないと。
 ギンちゃんも、頑張るぞと触手をフリフリとさせていた。

「そうそう、帝国の使節団を歓迎する晩餐会に、いま集中講習を受けている連中は呼ばない事が決まった。当初よりは良くなったが、まだまだ人前に出せるレベルではない」

 おお、陛下が無理矢理話題を切り替えた。
 とはいえ、僕としても集中講習に出ている貴族が晩餐会には出て欲しくない。
 というのも、対帝国強硬派も含まれているからだ。
 時々スラちゃんが集中講習を見に行っているが、残念ながら成果は乏しいという。
 ビーデル侯爵様も、思わずため息をつくレベルだそうだ。

「謁見のクリスの件で噛み付いた貴族レベルではないが、それに近いところがある。集中講習から特別訓練に変える予定だ」

 特別訓練って、軍人に適用されるんじゃなかったっけ?
 でも、特別訓練でもあの貴族は変わらないと思うけどなあ。
 こんな感じで昼食を食べ終え、僕は再び業務に戻った。

「よく家庭では妻に逆らうなと言われているが、それは本当だ。私も何回も下手をして妻に怒られた事か」

 今度はヘルナンデス様が執務室に顔を見せたが、ここでも話題は奥さんの事だった。
 でも、ヘルナンデス様と奥さんはとても仲がいいはずだ。

「私も、記念日には贈り物をしたりしている。そういう気遣いが必要だ」
「僕も、それは分かります。クリスと共に買い物に行ったり、みんなでお祝いしたりしています」
「はは、ケン君も若いなりに苦労をしているのか」

 今は母体優先で買い物は控えているけど、クリスも買い物は好きだからなあ。
 赤ちゃんが生まれたら、あれこれ買うのは目に見えていたのだった。