【7月24日発売!】毒父に物資扱いで戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートでなんでも癒しちゃいます

 帝国からの使節団の到着が近づく中、対帝国強硬派は今のところ大人しくしていた。
 不気味な静けさだったので、僕も王家も気味が悪い程だった。
 普段だったらあれこれ文句を言うのだろうが、何にも言ってこなかった。
 対帝国強硬派は、僕に側室を送り込もうとして失敗したのもあるのかな。

「アルファちゃんとミカンちゃんが、当分専任で偵察をする事にしました」
「すまんな。当分頼む」

 そこで、アーサー様と相談して、怪しいと思われる貴族を偵察する事にした。
 何か悪だくみでもしている可能性があるので、とにかく何でもいいから情報を集めないと。
 ミカンちゃんも、偵察は任せろと張り切っていた。
 必要に応じて偵察人員を増やす事にし、暫くは二匹で対応する。
 され、僕は僕でやる事がある。
 というか、アーサー様も一緒の件だ。

「新人職員は、流石【蒼の治癒師】様の教え子と言われるだけあって優秀だ。研修も問題なくクリアした。しかし、新たに一般職員に課した研修で問題を起こした者がいる」
「官僚は、面接が必須なのでほぼ問題ないんですよね。うーん、一般職員か……」
「所謂、官僚試験を受けるに値しないものだ」

 アーサー様も思わず溜息を漏らすレベルだ。
 各貴族家は、その貴族家のプライドにかけて教育する。
 ただ、貴族は偉いのだという貴族至上主義の勢力は、昔から努力もせずに甘やかされて育ってきた。
 その影響からか、残念な貴族当主や貴族子弟が存在した。
 今回研修で問題を起こしたのも、そんな人達だ。

「仕事上の都合で研修を受けられないのならしょうがない。そういうものは事前に申請しているし、事後研修の態度も良好だ。奴らは、無断欠席をしたりずっと居眠りをしたりしていた。到底許されるものではない」

 おお、アーサー様から怒りの炎がメラメラと燃えている。
 そして、今日行われる研修には僕が司会でアーサー様が講師をする予定だ。
 講習に強制参加となった貴族は、わざわざ軍が迎えに行ったらしい。
 拒否すると罰金付きの停職という、陛下の命令書のおまけ付きだ。
 ということで、早速研修が行われる部屋に向かった。

 ガチャ。

「「「「「このガキ……へっ?」」」」」

 僕達が部屋に入るなり、集まっている八人の貴族は一瞬悪態をつこうとして止めた。
 実は、講習の司会は僕だと発表していたので、僕に文句を言おうとしたのだろう。
 あくまでも僕は司会であって、講師はアーサー様ですよ。
 集まっている貴族は、アーサー様の姿を見るなり思わず固まってしまった。

「何か勘違いしているのがいるみたいだが、あくまでもケン君は司会だ。良かったな、相手が私で。我が父上たる陛下も、今回の研修の講師をしたいと言っておったぞ」
「「「「「へ、陛下……」」」」」

 アーサー様がニヤリとしながら話をすると、集まった貴族はヤバいという表情に変わった。
 自分が誰にマークされているのか、ようやく気がついたみたいだ。
 そして、アーサー様が演台に移動した。

「今回の研修は、職員の資質向上のために全職員に義務付けた。それが、貴族であろうが、閣僚であろうが、官僚であろうがだ。勿論、私もここにいるケン君も受けている。王族も研修を受けると、周知した際に併記した」

 アーサー様は、努めて冷静な声で淡々と話した。
 会場内はシーンと静まり返り、貴族の唾を飲み込むゴクリという音まで聞こえそうだ。

「諸君らの、普段の勤務態度も調べている。無断欠勤、遅刻早退は当たり前。部下に仕事をやらせて、手柄は自分のもの。ハッキリ言って、ふざけているとしか言いようがない!」
「「「「「も、申し訳ございません……」」」」」

 アーサー様の怒気に、集まった貴族は立ち上がって頭を下げた。
 勤務態度は最悪で、この件でもルーカス様は怒っていた。
 本当はもう数家が再研修を受ける予定だったが、僕に無理矢理嫁を勧めたりした件で捕まっていた。
 つまり、自分の事だけで周りの被害など一切気にしない貴族だ。
 そして、僕が簡単にこの後の流れを説明した。

「この後、アーサー様より講演頂きます。その後、簡単なテストを行い講評を頂く予定です。講演は一時間で、メモなどを取って頂いて構いません」
「「「「「えーっと……」」」」」

 貴族は、いきなりテストと聞いてかなり狼狽えていた。
 いやいや、業務上の簡単なテストですよ。
 そして、僕は各貴族が座るテーブルにメモ用紙とペンを置いた。
 これで、ある意味逃げられない状況だ。

「それでは、講演を始める」

 アーサー様が話すのは、業務上気をつける極々基礎のところだ。
 勤務態度や職場上のルール、贈収賄の禁止など、本当に当たり前の事だ。
 なのに、貴族は初めて聞くという表情をしてメモを取る手が止まっていた。
 今まで、誰からも基本的な事を教えられていなかったのだろう。
 それか、教えられても自分は貴族だからと適当に受け流していたはずだ。
 アーサー様も、まるで子どもに話すかの如く優しく説明していた。
 勿論、言葉態度は威厳のあるものだ。
 アーサー様の講演は予定通り一時間で終わり、僕は貴族の前にテスト用紙を配布した。

「それでは、これより三十分間のテストタイムとする。勿論、メモを見て問題ない」

 アーサー様の声で、テストが始まった。
 僕は、時計型魔導具のタイマーをセットした。
 アーサー様はそのまま演台に立ち、貴族をみていた。
 その為、貴族は周りにいる貴族に話しかける事もできず、完全に独力でテストを解かないとならない。
 ギンちゃんも周囲をぴょんぴょんと動いているが、不正な様子はない。
 というか、解答を書き込むはずの貴族の手が止まっているからだ。
 貴族はヤバいという表情のままフリーズしており、汗もダラダラとかいていた。

 ジリリリリリ。

「時間です。解答用紙を回収します」

 僕が時間を宣言して、ササッと解答用紙を回収した。
 アーサー様のところに解答用紙を運んだのだが、採点はあっという間に終わってしまった。
 アーサー様は、ため息を一つついてから話し始めた。

「全員、三割も解答が書き込まれていない。勿論、合格点をつけるレベルではない」
「「「「「うぐっ……」」」」」

 アーサー様の鋭い視線に、貴族は全員狼狽えた。
 ほぼ全てが一割以下の正答で、零点もちらほら見受けられた。
 ギンちゃんもこっそりと解答用紙を見ていたが、こりゃ駄目だというリアクションだ。

「ほほう、中々面白い結果が得られたな」
「「「「「へ、陛下!?」」」」」

 ここで、こっそりと部屋の最後尾で成り行きを見守っていた陛下がゆっくりと前に歩いていった。
 実は、陛下は採点の辺りで部屋に入っていた。
 突然の陛下の登場に、貴族は狼狽えるばかりだ。

「なに、国も何もせぬ事はない。親によって甘やかされた者もいるのは事実だ。軍でも、同様の結果を得た者がいた。そこで、明日より対象者を集めて集中的に講習を実施する。これは、ここにいる者全員必須だ。場所は、軍の施設を使う」
「「「「「か、畏まりました……」」」」」

 貴族は、立ち上がって陛下に頭を下げた。
 多分こうなるのだろうかと、事前にあれこれ準備していた。
 やる事はやるのだから、後は本人がどれだけやる気を見せるかだ。
 因みに、軍も教えるのが大好きなスパルタ教官が担当する事になっている。
 頑張って、基礎的な事を覚えましょう。