「俺は悪霊に殺される」
こう遺書に書いたとして、信じてくれる人はいるだろうか。
ここのところ、俺の頭の中はそれでいっぱいだ。
たとえば隣の席の豊橋陸人ならなんと言うだろうか。
彼は俺が教科書を忘れたときに見せてくれるし、たまにいっしょにお昼ごはんを食べようと誘ってくれる、いい人だ。
しかし――。
俺は首を振る。
これまで俺が悪霊が見えると言って、信じてくれた人などひとりもいなかった。
俺の遺書を読んだ人はみんなこう考えるに違いない。
「古屋和弥さんは学校を休みがちで、きっと生まれつき体が弱かったんだと思います。それで疲れて、妙な遺書を書いたんでしょう」
そして俺の死も、悪霊に怯えた日々も全てなかったことになって日常に埋もれていくのだ。
*
6月。
クラス替えの新鮮な空気が消え、5月の連休で中だるみをして、6月の教室はなんだか生ぬるい。
梅雨が明けていよいよ夏の足音が聞こえてきている。
クラスメイト達はみな下敷きをうちわ代わりにして涼をとりながらお弁当をつついている。
俺はひとり机に突っ伏していた。
――昼休みは、あまり得意ではない。
話す相手がいないからだ。
時計の針は遅遅として進まない。
昼休みが早く終わるように念じていると、突然声をかけられた。
「セミちゃん」
顔を上げると、そこには切れ長の目をした男子生徒がいた。
「セミ……?」
彼は胸を張る。
「そう。セミ。君のあだ名。僕が考えた」
「ええと……」
たぶん、彼はクラスメイトだ。
切れ長の瞳に、色素の薄い肌。
頭の中をぐるぐると検索するが、クラスメイトとまともに関わったことがない俺は彼の名前を思い出せるはずがない。
彼は胸を叩いてみせる。
「安城万理。一十百千万の万にことわりの理。マリじゃなくてバンリだ」
「え、あ、どうも」
「君の名前は?」
「古屋和弥ですけど」
「そうか。よろしく頼む」
教室で声を出すのが久々で縮こまる俺とは対照的に、彼は自信満々だ。
彼は俺の前の席の椅子を引いて勝手に座って足を組む。
彼は口は笑っているけど、目は笑っていない。
感情の読めない表情という表現がぴったりだ。
彼は言う。
「君は前回のロングホームルーム休んでいたから知らないかもしれないが、僕はこのクラスの学級委員長だ」
「あ、はい」
「学級委員長として君に話がある」
「はい」
「月末にある体育祭のことだ。出場したい種目はあるか? 希望を聞こう」
「ああ……」
話の内容がわかって、体から力が抜ける。
俺は頬を掻きながら尋ねる。
「ええと、今みんなの希望状況はどんな感じですか……? 人数の空きがある種目に入れてもらえればそれで……」
ひとまず無難に答えた俺に、万理くんは首を振る。
「それはまだわからないな」
「え?」
「他のクラスメイトの希望はまだ聞いていない。今週のロングホームルームで聞く。でも、その前に君の希望だけ聞きにきた」
「なんでですか?」
「敬語はやめろ。同級生だ」
「あ、は、うん」
頷いたのはいいが、なんとなく落ち着かない。
それは彼が自信にあふれ、とても自分と関わってくれるような人間に見えないからだろう。
こう遺書に書いたとして、信じてくれる人はいるだろうか。
ここのところ、俺の頭の中はそれでいっぱいだ。
たとえば隣の席の豊橋陸人ならなんと言うだろうか。
彼は俺が教科書を忘れたときに見せてくれるし、たまにいっしょにお昼ごはんを食べようと誘ってくれる、いい人だ。
しかし――。
俺は首を振る。
これまで俺が悪霊が見えると言って、信じてくれた人などひとりもいなかった。
俺の遺書を読んだ人はみんなこう考えるに違いない。
「古屋和弥さんは学校を休みがちで、きっと生まれつき体が弱かったんだと思います。それで疲れて、妙な遺書を書いたんでしょう」
そして俺の死も、悪霊に怯えた日々も全てなかったことになって日常に埋もれていくのだ。
*
6月。
クラス替えの新鮮な空気が消え、5月の連休で中だるみをして、6月の教室はなんだか生ぬるい。
梅雨が明けていよいよ夏の足音が聞こえてきている。
クラスメイト達はみな下敷きをうちわ代わりにして涼をとりながらお弁当をつついている。
俺はひとり机に突っ伏していた。
――昼休みは、あまり得意ではない。
話す相手がいないからだ。
時計の針は遅遅として進まない。
昼休みが早く終わるように念じていると、突然声をかけられた。
「セミちゃん」
顔を上げると、そこには切れ長の目をした男子生徒がいた。
「セミ……?」
彼は胸を張る。
「そう。セミ。君のあだ名。僕が考えた」
「ええと……」
たぶん、彼はクラスメイトだ。
切れ長の瞳に、色素の薄い肌。
頭の中をぐるぐると検索するが、クラスメイトとまともに関わったことがない俺は彼の名前を思い出せるはずがない。
彼は胸を叩いてみせる。
「安城万理。一十百千万の万にことわりの理。マリじゃなくてバンリだ」
「え、あ、どうも」
「君の名前は?」
「古屋和弥ですけど」
「そうか。よろしく頼む」
教室で声を出すのが久々で縮こまる俺とは対照的に、彼は自信満々だ。
彼は俺の前の席の椅子を引いて勝手に座って足を組む。
彼は口は笑っているけど、目は笑っていない。
感情の読めない表情という表現がぴったりだ。
彼は言う。
「君は前回のロングホームルーム休んでいたから知らないかもしれないが、僕はこのクラスの学級委員長だ」
「あ、はい」
「学級委員長として君に話がある」
「はい」
「月末にある体育祭のことだ。出場したい種目はあるか? 希望を聞こう」
「ああ……」
話の内容がわかって、体から力が抜ける。
俺は頬を掻きながら尋ねる。
「ええと、今みんなの希望状況はどんな感じですか……? 人数の空きがある種目に入れてもらえればそれで……」
ひとまず無難に答えた俺に、万理くんは首を振る。
「それはまだわからないな」
「え?」
「他のクラスメイトの希望はまだ聞いていない。今週のロングホームルームで聞く。でも、その前に君の希望だけ聞きにきた」
「なんでですか?」
「敬語はやめろ。同級生だ」
「あ、は、うん」
頷いたのはいいが、なんとなく落ち着かない。
それは彼が自信にあふれ、とても自分と関わってくれるような人間に見えないからだろう。
