街灯に照らされた金髪が、夜風に揺れている。その手には黄金色に輝くロッドが握られ、空色の瞳には楽しげな光が宿っていた。
聖女の微笑みではない。
獲物を追い詰めた捕食者の笑み。
「あらあら、私たちを『楽しむ』つもりでしたの? 残念ですわね。今夜楽しむのは、私たちの方ですのよ」
ミーシャがロッドを高く掲げると、ヴゥン!という響きと共に沼が輝き、さらに柔らかくなっていった。男たちの身体が、腰まで沈んでいく。
「ひ、ひぃぃぃ!」
「た、助けてくれ!」
植木の陰からレオンたちがさっそうと現れる。
「全員動くな!」
エリナは剣を抜き、その黒曜石のような瞳には冷たい怒りが燃えている。ルナは杖を構え、緋色の瞳に炎が揺らめいていた。シエルは弓に矢をつがえ、碧眼が鋭く狙いを定めている。
完璧な陣形だった。
まるで、最初からこうなることを知っていたかのように。
「き、貴様ら気づいてたのか?!」
リーダーは顔をゆがめる。その表情には、驚愕と恐怖が入り混じっていた。
プロとしての誇りが、音を立てて崩れていく。完璧な計画だったはずだ。相手は新人パーティ。何の問題もなく仕事を終えられるはずだった。
それが、なぜ――。
「女の子たちを守るのが僕の仕事なんでね」
レオンが前に出た。
その翠色の瞳には、冷たい光が宿っていた。普段の温和な表情はどこにもない。そこにいるのは、仲間を傷つけようとした者を許さない、戦士の顔だった。
「で、ガンツ、話を聞かせてもらおうか?」
レオンは襲撃メンバーの最後尾で、ぶざまに沈みながら必死に顔を隠している大男に声をかけた。
「な、なんで分かった……!?」
ガンツは驚愕に目を見開く。黒い布で顔を覆っているのに、なぜ分かったのか。
「僕には全部見えてるんだよ」
レオンの声は、静かだった。
「カインが君たちを雇ったこと。君たちがどんな目的でここに来たのか。そして――君たちが今まで何をしてきたのかも」
その言葉に、男たちの顔から血の気が引いていく。
全部知られている。
今夜の計画だけではない。今までの全ての「仕事」が。
「ひ、ひぃ……!」
ガンツは恐怖に震える。泥に沈みながら、まるで地獄に引きずり込まれていくかのような錯覚に陥っていた。
「さて、どうしようか」
レオンは冷たく微笑んだ。
「君たちを衛兵に引き渡すのは簡単だ。でも、それだけじゃ、カインは懲りないだろうね」
その言葉に、男たちは絶望の表情を浮かべた。
月のない夜空の下、アルカナの逆襲が始まろうとしていた。
◇
一行はけりをつけるべく、カインの屋敷へと向かった。
縄で縛られたガンツを先頭に、レオンたちは堂々と石畳の道を歩いていく。
月明かりすら届かぬ闇夜の中、彼らの足音だけが静寂を破っていた。
五つの影が、夜の街を進んでいく。
「お、おい、本当にこんなことして大丈夫なのか? カイン様は貴族とのコネがあるんだぞ……」
ガンツは怯えた声で言う。縄に縛られた巨体が、小刻みに震えていた。
「大丈夫。今夜、全てに決着をつける」
レオンの翠色の瞳には、静かな決意が宿っている。
その瞳の奥には、過去の屈辱と、仲間を守るという覚悟が燃えていた。
カインに追放された朝のことを、レオンは今でも鮮明に覚えている。
公衆の面前で罵倒され、セリナに裏切られ、全てを失った。あの時、冷たいギルドの床に転がって意識を失いかけた時、自分の人生は終わったと思った。
だが、終わらなかった。
四人の少女たちと出会い、新しい人生が始まった。
そして今夜、過去との決着をつける。
もう、後戻りはできない。
◇
カインの屋敷は、豪奢な造りだった。
大理石の外壁、金箔で装飾された門扉、手入れの行き届いた庭園。全てが、成功した冒険者の証だった。
だが、レオンは知っている。
その輝きの多くは、他人から奪い取ったものだ。
レオンの汗と涙も、ここに搾取されていた。何年もの間、彼の鑑定能力が稼ぎ出した報酬の少なくない割合が、この屋敷の維持費に消えていったのだ。
「カイン様! セリナ! 大変です!」
ガンツが玄関から大声を出し、カインとセリナを呼び出す。その声は、夜の静寂を切り裂いた。
しばらくして、足音が屋敷内に響く。
バタバタと慌てた足音――。
「何事だ……?」
出てきたカインは、縄に縛られたガンツとアルカナ一行を見て、驚愕に目を見開いた。
その碧眼には、理解できないという困惑と、徐々に湧き上がる恐怖が浮かんでいた。
「レ、レオン……!?」
セリナも後ろから顔を出し、その場面に凍りつく。
栗色の髪が乱れ、パジャマ姿のまま飛び出してきていた。かつての妖艶な美しさは、今は恐怖に歪んでいる。
「よぉ、カイン。久しぶりだね」
レオンは静かに微笑んだ。
だが、その瞳には怒りの炎が燃えていた。抑制された、しかし確実に燃え盛る炎が。
聖女の微笑みではない。
獲物を追い詰めた捕食者の笑み。
「あらあら、私たちを『楽しむ』つもりでしたの? 残念ですわね。今夜楽しむのは、私たちの方ですのよ」
ミーシャがロッドを高く掲げると、ヴゥン!という響きと共に沼が輝き、さらに柔らかくなっていった。男たちの身体が、腰まで沈んでいく。
「ひ、ひぃぃぃ!」
「た、助けてくれ!」
植木の陰からレオンたちがさっそうと現れる。
「全員動くな!」
エリナは剣を抜き、その黒曜石のような瞳には冷たい怒りが燃えている。ルナは杖を構え、緋色の瞳に炎が揺らめいていた。シエルは弓に矢をつがえ、碧眼が鋭く狙いを定めている。
完璧な陣形だった。
まるで、最初からこうなることを知っていたかのように。
「き、貴様ら気づいてたのか?!」
リーダーは顔をゆがめる。その表情には、驚愕と恐怖が入り混じっていた。
プロとしての誇りが、音を立てて崩れていく。完璧な計画だったはずだ。相手は新人パーティ。何の問題もなく仕事を終えられるはずだった。
それが、なぜ――。
「女の子たちを守るのが僕の仕事なんでね」
レオンが前に出た。
その翠色の瞳には、冷たい光が宿っていた。普段の温和な表情はどこにもない。そこにいるのは、仲間を傷つけようとした者を許さない、戦士の顔だった。
「で、ガンツ、話を聞かせてもらおうか?」
レオンは襲撃メンバーの最後尾で、ぶざまに沈みながら必死に顔を隠している大男に声をかけた。
「な、なんで分かった……!?」
ガンツは驚愕に目を見開く。黒い布で顔を覆っているのに、なぜ分かったのか。
「僕には全部見えてるんだよ」
レオンの声は、静かだった。
「カインが君たちを雇ったこと。君たちがどんな目的でここに来たのか。そして――君たちが今まで何をしてきたのかも」
その言葉に、男たちの顔から血の気が引いていく。
全部知られている。
今夜の計画だけではない。今までの全ての「仕事」が。
「ひ、ひぃ……!」
ガンツは恐怖に震える。泥に沈みながら、まるで地獄に引きずり込まれていくかのような錯覚に陥っていた。
「さて、どうしようか」
レオンは冷たく微笑んだ。
「君たちを衛兵に引き渡すのは簡単だ。でも、それだけじゃ、カインは懲りないだろうね」
その言葉に、男たちは絶望の表情を浮かべた。
月のない夜空の下、アルカナの逆襲が始まろうとしていた。
◇
一行はけりをつけるべく、カインの屋敷へと向かった。
縄で縛られたガンツを先頭に、レオンたちは堂々と石畳の道を歩いていく。
月明かりすら届かぬ闇夜の中、彼らの足音だけが静寂を破っていた。
五つの影が、夜の街を進んでいく。
「お、おい、本当にこんなことして大丈夫なのか? カイン様は貴族とのコネがあるんだぞ……」
ガンツは怯えた声で言う。縄に縛られた巨体が、小刻みに震えていた。
「大丈夫。今夜、全てに決着をつける」
レオンの翠色の瞳には、静かな決意が宿っている。
その瞳の奥には、過去の屈辱と、仲間を守るという覚悟が燃えていた。
カインに追放された朝のことを、レオンは今でも鮮明に覚えている。
公衆の面前で罵倒され、セリナに裏切られ、全てを失った。あの時、冷たいギルドの床に転がって意識を失いかけた時、自分の人生は終わったと思った。
だが、終わらなかった。
四人の少女たちと出会い、新しい人生が始まった。
そして今夜、過去との決着をつける。
もう、後戻りはできない。
◇
カインの屋敷は、豪奢な造りだった。
大理石の外壁、金箔で装飾された門扉、手入れの行き届いた庭園。全てが、成功した冒険者の証だった。
だが、レオンは知っている。
その輝きの多くは、他人から奪い取ったものだ。
レオンの汗と涙も、ここに搾取されていた。何年もの間、彼の鑑定能力が稼ぎ出した報酬の少なくない割合が、この屋敷の維持費に消えていったのだ。
「カイン様! セリナ! 大変です!」
ガンツが玄関から大声を出し、カインとセリナを呼び出す。その声は、夜の静寂を切り裂いた。
しばらくして、足音が屋敷内に響く。
バタバタと慌てた足音――。
「何事だ……?」
出てきたカインは、縄に縛られたガンツとアルカナ一行を見て、驚愕に目を見開いた。
その碧眼には、理解できないという困惑と、徐々に湧き上がる恐怖が浮かんでいた。
「レ、レオン……!?」
セリナも後ろから顔を出し、その場面に凍りつく。
栗色の髪が乱れ、パジャマ姿のまま飛び出してきていた。かつての妖艶な美しさは、今は恐怖に歪んでいる。
「よぉ、カイン。久しぶりだね」
レオンは静かに微笑んだ。
だが、その瞳には怒りの炎が燃えていた。抑制された、しかし確実に燃え盛る炎が。



