「う、うーん。うん? あれ、ここは……」

 僕は、たくさんのベッドが並んでいる所で目が覚めました。
 えっと、何だか見覚えのある所だなあ……
 すると、僕が寝ているベッドの側に置かれていた椅子に座っていた人が僕に声をかけてきました。

「ナオ、目が覚めたのね」

 僕に声をかけたのは、結婚式用の豪華なドレスからいつものドレスに着替えたエミリーさんでした。
 とってもホッとした表情で、僕が目覚めて安心したって感じですね。
 更に、お母さんもベッドの側の椅子に座っていて、僕が起きたのに気が付きました。

「えーっと、僕はどのくらい寝ていましたか?」
「ここは王城の治療施設で、披露宴が終わってから二時間くらいよ。あの後安全も考えて披露宴はそのまま終わりになったけど、どの貴族も納得して帰ったわ」

 エミリーさん曰く、披露宴は全ての予定が終了して後は終了の挨拶だけだったので、僕が搬送されて少し落ち着いたタイミングで陛下が終了の挨拶をしたそうです。
 そしてエミリーさんは、事件について少し話をしてくれました。

「先ず、ナオやちびっ子が集まって治療した転んだ赤ちゃんは、本当にたまたまみんなの近くに来ただけみたいね。ドラちゃんなどが珍しかったみたいで、両親の目を盗んでいつの間にか私たちの近くまでやってきたみたいなのよ」

 あの赤ちゃんは、僕のことを刺した貴族の子どもでもないそうです。
 赤ちゃんの両親は、僕が刺されて大騒ぎになった時に初めて自分の赤ちゃんがいつの間にか僕たちの側にいる事に気が付いたそうです。
 両親は、自分の赤ちゃんも刺されたのではとかなり慌てていたそうです。

「ナオの事を刺した貴族はハラグロ伯爵で、昔から私を息子の嫁にと考えていた貴族よ。知的派を自称していたけど、随分と短絡的な行動を取ったわ。ハラグロ伯爵はナオをすれ違いざまに刺してそのまま逃走しようとしたけど、ちびっ子達のスライムの総攻撃を受けて吹き飛んだわ」
「あの男はかなりしぶとかったわね。最終的に私とサマンサの攻撃を受けて沈黙したけど、旦那が止めなければサンドバッグにしてやろうと思ったわ」

 僕が動けなかったり意識を失っている間に、とっても大変な事が起きていたんだね。
 怒れるお母さんとサマンサお姉ちゃんを止めたお父さんが、個人的にはファンプレーだと思います。
 すると、エミリーさんがぽろぽろと涙を零し始めました。

「ナオが刺された直後、痙攣していて直ぐに危ないと思ったわ。ナオが死んじゃうんじゃないかって思って、本当に必死になっていたの。何をしたか記憶がないけど、とにかくナオが助かって本当に良かったわ……」

 僕自身も刺された直後はかなり危ないと実感したけど、助かったのはエミリーさんのお陰なんだよね。
 スラちゃんとカエラとキースも僕の事を一生懸命に治療してくれたし、みんなが僕の命の恩人です。

「エミリーさん、僕の命を助けてくれてありがとう。本当にありがとうございます」
「ふふ、当然よ。ナオに死んでもらったら困るわ、なんせ私の将来の旦那様になってもらわないといけないんだからね」

 僕がエミリーさんにお礼を言うと、エミリーさんは涙を拭いながら返事をしました。
 そんな僕たちの様子を、お母さんがニヤニヤとしながら見守っていました。

「ハラグロ伯爵は、重犯罪者牢屋に入れられてヘンリーお兄様とスラちゃんが厳しい尋問を行なっているわ。シンシアお義姉様とサマンサさん率いる軍の部隊が、ドラちゃん達と共にハラグロ伯爵家に強制捜査に向かっているのよ。アーサーとエドガー達のスライムも一緒に着いて行ったし、きっと凄い事になっているはずよ」

 エミリーさんが少し苦笑しながら教えてくれたけど、カエラとキースと保護者役のお父さんも屋敷の捜索に加わっていてかなり大規模な捜索になっているそうです。
 王家の結婚披露宴を舞台にした毒を使った殺傷事件なので、投入している軍ももの凄い多いそうです。

「ふわぁ……」

 そこまで話した所で、僕はまた眠気が襲ってきました。
 出血多量の影響で、かなり体力を失ったんだね。

「ナオ、このままゆっくり寝なさい。ここは医師もいるし、何かあっても大丈夫よ」
「お母さんは、オラクル公爵家に戻るわ。また明日様子を見に来るわね」

 僕は、治療施設を出るエミリーさんとお母さんを見送ったら直ぐに寝ちゃいました。
 色々な事が起きたけど、先ずは僕の体を治す事が優先ですね。